流れる雲の果て……1
民放の出演や週刊誌の対談なども舞い込み、人気者となった柏木醍醐は多忙を極めていた。
その為、座長が留守の間の地方公演は、中学生になったばかりの大二郎が中心になって務めるようになった。
幼少時から毎日、柏木大二郎は休むことなく舞台の上で踊ってきたが、近ごろは「流し目若さま」と二つ名を持つ父親の姿に、とてもよく似て来たと評判だった。
尊敬する父に近付けたようで。そんな評価はとてもうれしい。
一座を預かる重責に押し潰されそうになりながら、連日満員の舞台で、大二郎は客席に向かい懸命に笑顔を振りまいていた。
*****
「大二郎!帰ったぞ。」
「あ。お師匠さん、お帰りなさい!お疲れさまです。東京でのお仕事はどうでした?」
「ああ。順調で恐ろしいくらいだな。テレビや映画に出ると、多少は名が売れるだろうと思っていたが、まさかこんな風になるとは思っていなかった。ありがたいことだ。」
「お師匠さんのおかげで、こっちの方も毎日お客さんが多いんだよ。グッズの注文が間に合わないくらいなんだ。」
父親でもある醍醐に、しばらく会っていなかった大二郎は、化粧映えのする顔に刷毛で水おしろいを塗りながら、嬉しげに鏡越しに報告した。
「芝居の評判も良いそうじゃないか。すっかり、忠太郎はお前の十八番(おはこ)だな。」
「あのお芝居をかけた後は、お見送りの時にお客さまが褒めてくださるから、気分がいいんだ。」
大二郎は、自慢げに胸を張った。
「後は、もう少し踊りに艶が出ると良いんだが……、その皮かむりじゃどうしようもねぇな。」
化粧前の大二郎の格好に、父は目を細めた。しどけなく羽織った、長襦袢の前は拡がって下着を付けない大二郎の薄桃色のセクスは丸見えだ。
「まったく、色気の無いこったなぁ。さっさと筆下ろしさせちまうか?なぁ、羽鳥。」
ぷぅと、大二郎は頬を膨らませた。
「やだよ。おれは、いつかさあちゃんと結ばれる日まで、清らかな身体でいるんだから。大きなお世話です~。」
「ははっ。相変わらず初恋のさあちゃん一筋か。だがな、あんまり一途に思い詰めてると、向こうに彼女でもできてたら、泣くことになるぞ。」
「さあちゃん……に?彼女さん……が?うそだぁ……。」
じんわりと大きな目が潤むのに、周囲の方があわてた。
「座長!何言ってるんですか。さあちゃんは、大二郎に逢いたいってきっと思ってますよ。」
「ほんとですよ。まだ舞台あるんですからね。もう~、そう言う戯言は、後にしてくれないと困ります。」
「せっかく拵えた綺麗な顔が、泣くと崩れっちまう。さあ、大二郎、お客さんが待ってるぞ。」
「う……ん。」
しょんぼりと顔を曇らせた大二郎は、進行係に押されてスポットライトの中に立ったが舞台で一つ失態を演じた。
番場の忠太郎が、慕い続けた母親を呼ぶ場面。
お涙ちょうだいの最高潮に盛り上がった場面で。おっかさ~ん……と叫んで暗転するのだが、さあちゃ~ん……と口にしてしまい、さすがに醍醐も「あれは、おれが悪かった。」と座員に頭を下げた。
幼稚園の時の初恋を、いまだに大事に温めている大二郎だった。
新しいお話が始まりました。(*⌒▽⌒*)♪
大二郎くんの中学生のころのお話です。
初体験のせつなさと、別れの悲しさを書こうと思います。
は……はぴえ……■━⊂( ・∀・) 彡 ガッ☆`Д´)ノ
お読みいただければうれしいです。よろしくお願いします。此花咲耶
にほんブログ村
- 関連記事
-
- 流れる雲の果て……14 (2012/10/01)
- 流れる雲の果て……13 (2012/09/30)
- 流れる雲の果て……12 (2012/09/29)
- 流れる雲の果て……11 (2012/09/28)
- 流れる雲の果て……10 (2012/09/27)
- 劇団醍醐一座のポスター描きました (2012/09/26)
- 流れる雲の果て……9 (2012/09/25)
- 流れる雲の果て……8 (2012/09/24)
- 流れる雲の果て……7 (2012/09/23)
- 流れる雲の果て……6 (2012/09/22)
- 流れる雲の果て……5 (2012/09/21)
- 流れる雲の果て……4 (2012/09/20)
- 流れる雲の果て……3 (2012/09/19)
- 流れる雲の果て……2 (2012/09/18)
- 流れる雲の果て……1 (2012/09/17)