流れる雲の果て……6
大二郎は、ふと美千緒の持った携帯に目を留めた。
「だれかと電話してたの?」
「目ざといね。う……ん、再婚した母親からだった。」
「美千緒さんのこと、心配してた?」
「そんな人じゃない。それに、もう連絡しないでくれって言ったから、いいんだよ。」
「お母さんにそんなことを……?」
「一緒に暮す人が居るから、いいんだ。」
じっと見つめる大二郎から、視線をそらすようにして美千緒は話を逸らした。
話したがらないことは、詮索しないようにと醍醐に言われている大二郎は、気になりながらも唇を噛んでそれ以上何も聞かなかった。
西日の入る部屋に置かれた万年床の上で、そのまま静かに美千緒を抱きしめていた。
「……大ちゃん……?苦しいよ。」
「おれ……お師匠さんから、美千緒さんが抱えてることは、自分から話すまで聞いちゃ駄目だって言われてるの。」
「そうだね……。優しい人だよね……大ちゃんのお父さん。劇団の人は、みんな優しいよ。何も聞かずに置いてもらってありがたいと思っている。」
「おれね、美千緒さんが、いつか黙っていなくなるんじゃないかって考えたら、泣きそうになる……。おれ、美千緒さんの事、すごく好きみたいだ。」
「ぼくも、頑張り屋さんの大ちゃんが好きだよ。舞台の事だけでも大変なのに、勉強もよく頑張ってるよ。えらいなって思ってる。」
美千緒の肩に、温かい滴が滲みた。
「大ちゃん……?」
「おれの好きは……美千緒さんの「好き」とは違うと思う。」
思い詰めた大二郎の顔を、美千緒はまじまじと見つめる。
真意を測りかねていた。
「話してくれない……かな?聞いちゃいけないかな?おれ……美千緒さんが時々苦しそうにしてるの知ってるんだ。……病気だけじゃないと思う。誰かの事、考えてる。それはお母さんの事?それとも違う人?」
しばらく逡巡して、美千緒は大二郎の肩にそっと手を回した。
「困ったね。何ていい子なんだろうね……。何もかも失くしてしまった、抜け殻みたいなぼくをこんなに心配してくれて……。大ちゃんは、温かいね。」
美千緒はそっと、大二郎の頬に触れた。
「大ちゃんが聞きたいなら何でも話してあげる。」
大二郎は濡れた顔を向けた。
「やっぱり……いい。おれの我ままなんだ。辛いことなんでしょう?知ってるよ。この部屋みたいに、美千緒さんの心の中には何もない。空っぽだって、わかるもの。……おれは、美千緒さんの部屋に住みたいけど、鍵を持って……ないから、入れないんだ。」
美千緒は指を伸ばし、大二郎のぷくりとした唇にそっと触れた。
大二郎は意を決して、美千緒を押し倒し共に倒れ込んだ。
「……あっ。大ちゃん……。」
「おれじゃ駄目?おれじゃ頼りなくて、美千緒さんの力になれない?おれはガキだけど、美千緒さんが苦しんでいるのはわかるよ。だって出会った時から、ずっと美千緒さんだけを見てるんだもの。」
「大ちゃんには、初恋のさあちゃんがいるでしょう?ぼくのことは良いんだよ。どうせ、もうじきお終いになる……。良い夢を見たと思ってるよ。もういいんだよ……。」
「……や、だ……っ!」
どっと堰を切って大二郎の目から涙が溢れた。
何もかも諦めてしまった、青年の虚ろな心には、自分の気持ちなど何も届かないのだと思うと哀しくて胸が痛かった。
。・゚゚ '゜(*/□\*) '゜゚゚・。「美千緒さん~」
(〃ー〃) 「大二郎くん……。」
とうとう本音をぶちまけてしまった大二郎くん。美千緒さんは、どうする……?(´・ω・`)
本日もお読みいただきありがとうございます。
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とても励みになっています。 此花咲耶
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「目ざといね。う……ん、再婚した母親からだった。」
「美千緒さんのこと、心配してた?」
「そんな人じゃない。それに、もう連絡しないでくれって言ったから、いいんだよ。」
「お母さんにそんなことを……?」
「一緒に暮す人が居るから、いいんだ。」
じっと見つめる大二郎から、視線をそらすようにして美千緒は話を逸らした。
話したがらないことは、詮索しないようにと醍醐に言われている大二郎は、気になりながらも唇を噛んでそれ以上何も聞かなかった。
西日の入る部屋に置かれた万年床の上で、そのまま静かに美千緒を抱きしめていた。
「……大ちゃん……?苦しいよ。」
「おれ……お師匠さんから、美千緒さんが抱えてることは、自分から話すまで聞いちゃ駄目だって言われてるの。」
「そうだね……。優しい人だよね……大ちゃんのお父さん。劇団の人は、みんな優しいよ。何も聞かずに置いてもらってありがたいと思っている。」
「おれね、美千緒さんが、いつか黙っていなくなるんじゃないかって考えたら、泣きそうになる……。おれ、美千緒さんの事、すごく好きみたいだ。」
「ぼくも、頑張り屋さんの大ちゃんが好きだよ。舞台の事だけでも大変なのに、勉強もよく頑張ってるよ。えらいなって思ってる。」
美千緒の肩に、温かい滴が滲みた。
「大ちゃん……?」
「おれの好きは……美千緒さんの「好き」とは違うと思う。」
思い詰めた大二郎の顔を、美千緒はまじまじと見つめる。
真意を測りかねていた。
「話してくれない……かな?聞いちゃいけないかな?おれ……美千緒さんが時々苦しそうにしてるの知ってるんだ。……病気だけじゃないと思う。誰かの事、考えてる。それはお母さんの事?それとも違う人?」
しばらく逡巡して、美千緒は大二郎の肩にそっと手を回した。
「困ったね。何ていい子なんだろうね……。何もかも失くしてしまった、抜け殻みたいなぼくをこんなに心配してくれて……。大ちゃんは、温かいね。」
美千緒はそっと、大二郎の頬に触れた。
「大ちゃんが聞きたいなら何でも話してあげる。」
大二郎は濡れた顔を向けた。
「やっぱり……いい。おれの我ままなんだ。辛いことなんでしょう?知ってるよ。この部屋みたいに、美千緒さんの心の中には何もない。空っぽだって、わかるもの。……おれは、美千緒さんの部屋に住みたいけど、鍵を持って……ないから、入れないんだ。」
美千緒は指を伸ばし、大二郎のぷくりとした唇にそっと触れた。
大二郎は意を決して、美千緒を押し倒し共に倒れ込んだ。
「……あっ。大ちゃん……。」
「おれじゃ駄目?おれじゃ頼りなくて、美千緒さんの力になれない?おれはガキだけど、美千緒さんが苦しんでいるのはわかるよ。だって出会った時から、ずっと美千緒さんだけを見てるんだもの。」
「大ちゃんには、初恋のさあちゃんがいるでしょう?ぼくのことは良いんだよ。どうせ、もうじきお終いになる……。良い夢を見たと思ってるよ。もういいんだよ……。」
「……や、だ……っ!」
どっと堰を切って大二郎の目から涙が溢れた。
何もかも諦めてしまった、青年の虚ろな心には、自分の気持ちなど何も届かないのだと思うと哀しくて胸が痛かった。
。・゚゚ '゜(*/□\*) '゜゚゚・。「美千緒さん~」
(〃ー〃) 「大二郎くん……。」
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