流れる雲の果て……2
「きゃあ。本物の柏木醍醐~~。」
「大ちゃんのパパ、素敵。」
大二郎のファンも、思いがけず近くで柏木醍醐に逢えて喜んでいた。
妙齢のご婦人方が少女のように頬を染めて、醍醐と握手するために並んでいる姿は、どこか微笑ましく可愛い。
「やっぱり、お師匠さんはすごいな。お客さまの顔が、おれの時と違う。すごく、嬉しそうだ。」
「ねぇ、羽鳥」と呼びかけたら、こちらもぼうっと醍醐に見惚れていて返事もしない。
「こっちも夢中か~。」
*****
「本日はお運びいただきまして、ありがとう存じます。倅、大二郎ともども、今後ともよろしくお願いいたします。」
「醍醐さん。大ちゃんはすごく上手になったわよ。留守にしても安心ね。」
「はい。お客さまに支えていただいて、大二郎もがんばっております。今後とも、劇団醍醐をご贔屓ください。」
常連に声を掛けられ、共に笑顔を向けながら、ふと肩越しに大二郎は気付いた。
「あ。あの人……今日も来てくれたんだ。」
長い髪の細身のスーツの男が、遠目にちらりと大二郎を見やると、軽く頭を下げて帰路に着こうとしている。
近くに寄って握手を求めるわけでもなく、言葉を掛けて来るだけでなく、いつも同じ席に座って公演を見た後、静かに帰ってゆく。
もう二週間になるだろうか。
女性や年配の多い客席に、通ってくる若い男の客が珍しく気になっていた。
「あ……れ?あの人。」
「どうした?」
「何だか様子が変だ。」
ふわふわとした足取りが、酔っ払いのように何だかおぼつかない気がする。
「あっ!危ないっ!」
お見送りの列から、咄嗟に駆け出した大二郎は、青年が床に倒れ込むのを何とか受け止めた。
「良かった~。今日はお引きずりじゃなかったから、間に合った。」
着流し姿の大二郎に縋り付くようにして、その場に座り込んだ青年は、微かな声ですみません……と口にした。
「いいから、黙ってなって。気分が悪いのかい?」
「大丈夫……目が回ってるだけ。ただの脳貧血だと思うから……少しだけ休ませて下さい。」
「貧血?よくあるのか?」
「たまに……。」
そう言われてみれば、どこもかも驚くほど細い。
がくりと首を垂れた青年の手が、力なく滑り落ちた。
「おいっ!おいったら。」
細い眉をひそめて、青年は苦しげだった。額に脂汗が滲む。
「大二郎。動かさない方が良い。取りあえず、楽屋に運ぼう。」
「羽鳥。大丈夫かなぁ、この人。顔色真っ白で……何か、重い病気じゃないのかな。」
この時の、大二郎の読みは辛くも当たっていた。
白く水おしろいを塗った大二郎の手よりも顔を白くして、青年は硬く目をつむり息を荒くしていた。
舞台を観に来た青年の正体は……?
\(゜ロ\)(/ロ゜)/大二郎 「わ~~~、倒れちゃった。大変だ~~!
( -ω-)y─┛~~~~醍醐 「落ち着け、大二郎。」
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