夜の虹 10
「きつくない?月虹。」
「ああ。急に呼び出して悪かったな、雪。」
「ううん。でも、このくらいの怪我で済んで良かったね。涼ちゃんは?」
「あの馬鹿か。……そろそろ、来るころだと思うぞ。」
「……ん?そろそろって、なぁに?」
*****
雪ちゃんがさらしをきつく巻いて止血したのと時間差で、所轄の刑事が覗きに来た。
月虹の読み通りだった。
「よぉ。仙道さん、いるかい?この事務所に、川口涼介ってのがいるだろう。」
「涼介ですか?そいつなら、おれの可愛がってる舎弟ですよ。あいにく留守にしてますが、あいつが何かやらかしましたかね?」
月虹がいつもと変わらないのを見て、どこか不思議そうな刑事が、実はな……と声を落とした。
「月虹の兄貴を刺しちまったって、あんたん所のガキが署内に飛び込んできて泣き喚いてるんだ。川口涼介の兄貴分ってのはあんたのことだろう?違うかい?」
「おれをですか?うう~ん、あの野郎、酔っ払って、夢でも見たんじゃないですかね。おれはこの通りぴんぴんしてますし、さっきまでこいつと、やってた所ですよ。なぁ、雪。」
「いやぁん~。」
雪ちゃんは刑事に裸の背中を向けて、恥ずかしそうに胸に薄物を抱えた。
「おい、六郎っ、いるか。」
呼ばれて六郎が顔を出す。
「なんすか?……え?刑事さん、今頃何か、あったんすか?」
「酒を飲むなら、ちゃんと涼介を連れて帰れって言ってるだろう。あいつ、酒に弱いんだから。」
「え?あいつ、何かやらかしちまったんですか?」
「警察で、おれを刺したって喚いてるらしい。泣き上戸だったのか?」
「うわ~、まじで?すみません、刑事さん。おれたち、今日スナック花菱ってところで酒飲んだんです。ちゃんとしたところで、洋酒のいいのを飮んだのって初めてだったんで、つい浮かれちまって……すみません、涼介がもう少し飲んでから帰るって言うんで、ちょいと前におれだけ先に帰ってきてしまいました。」
「そうだったのか。じゃあ、あの子虎、いっそうちに一晩泊まらせるかい?」
「いえ。おれの責任なんで、今直ぐ引き取りに伺います。ご足労をお掛けしてすみませんでした。」
神妙に頭を下げた六郎は、涼介の兄分で機転の利く男だった。
すぐさま刑事に同道して、涼介を引き取ってきますと出かけた。
月虹は刑事が帰るのを確かめて、ソファに倒れ込んだ。何でもない風を装ったせいか、足元がふらついた。
「思った通りだ。あの馬鹿、いきなりサツに駆け込みやがったな。」
「そんな風に言っちゃ可哀想よ。涼ちゃん、思い詰めてたんだよ。月虹の事大好きだから。」
「知ってたのか。」
「あたしが月虹の腕に抱かれてるときも、いつだって切なそうな顔して見つめていたもの。本当は、自分のこと抱いて欲しいって、全身で言ってるのに、月虹ってばあたしが涼ちゃんをベッドに入れてやっても、気付かない振りして、全然構ってあげないんだもの。ほんと、涼ちゃんには冷たいんだから。可愛いくせに。」
「一時の憧れなら、すぐ醒めるだろうと思ったんだよ。悪かったな、雪。」
「どうせ病院に行かないだろうから、しばらく消毒に来るわね。傷は大きくはないけど、きちんと縫った方が早く治ると思うけどなぁ。病院行く?あたしのお客さんに、大学病院の外科医いるわよ?連れてきてあげようか?」
「腕のいい看護師が傍に居るのに、藪医者なんぞいらねぇよ。」
「今日は、お風呂に入らない方がいいわ。化膿しないように、後で抗生物質だけ飲んでおいてね。」
「わかった。」
雪ちゃんは、仕事に戻って行った。
「送れなくて悪いな。」と、声を掛けたら、「あたしはいいから、涼ちゃんに優しくしてあげて。」と返してきた。
「お前はまじで、いい女だな。」
「月虹の女だも~ん。」
うふふ……と、ヘルスの雪ちゃんは、大きなおっぱいを揺らした。
本日もお読みいただき、ありがとうございます。(*⌒▽⌒*)♪
涼介は、月虹の読み通り、泣きながら警察に掛け込んだみたいです。
(`・ω・´)月虹「雪。さすがおれの女だな。」
(〃゚∇゚〃) 雪「いや~~ん。」