夜の虹 3
ヘルスの雪ちゃんに渡す、ご褒美の甘いお菓子は、いつも涼介が買ってくる。
母親と二人暮らしの雪は、月に一度のご褒美に兎やの「きんつば」をねだった。月に一度と言うのは、月虹が集金に出向く日の事だ。
「肉体労働しているとね、無性に甘いものが食べたくなっちゃうのよね。それに、母ちゃんもこれが好きなの。一緒に食べるんだ。」
お金できたよ~♡とメールをしてきたファッションヘルスの雪ちゃんは、気の毒な境遇の女の子だった。
雪ちゃんの父親は、工場を経営していたが多額の借金をして首が回らなくなり、ある日突然妻子を置いて蒸発してしまった。どうしようもなくなった母子が、借金取りからあちこち逃げ回っていたのを月虹が見つけた。看護学校に入学する予定だったと、かなり後から聞いた。
月虹が組長代行を務める小さな鴨嶋組には金がなく、親組から回ってくる債権の束を処理するのも仕事の内だった。本業のホストの傍ら、月虹は、高齢の組長に代わって逃げ回る債権者を見つけて集金している。
見つけた親子を親組に渡さず鴨嶋組に連れ帰った月虹は、化粧気のない顔に向かって、組長の代わりに話をした。
雪は18歳になったところだった。
「本気で父親の借金を返す気があるかい?逃げ回っていちゃ、いつまでたっても今の暮らしが終わらない。覚悟を決めて、お終いにしないといつかは親子で首をくくるしかなくなるぜ?父親の方も、見つかったらただじゃすまないだろうしな。」
「父ちゃん……お父さんは、捕まったらどうなるんですか?」
「さあなあ……。おれの知ってる限り、今のままだと命の保証はできないな。」
「……どうすればいいですか?教えてください。わたしも、逃げ回るだけの暮らしなんて、本当は嫌です……看護師になる夢だってあったのに……看護学校だって合格してたのに。このままで、終わりたくないです。」
月虹は雪と名乗った少女を母親から引き離し、廊下で話をした。
「女に生まれて運が良かったな。あんたには返すもんがあるだろう?夢があるなら、なおさら良い。きっちり借金にカタ付けて新しく人生やり直す勇気を持ってみるか?あんただったら、二・三年もあれば借金何ざ終わっちまうだろうさ。おれが中に入って話を付けてやるよ。金も立て替えてやるから、おれに月々返しゃあいい。店もおれが世話してやる。頑張ってみな。」
そんな月虹の言葉を、雪ちゃんはうんうんと頷きながら聞き、しばらくの間、月虹の胸で泣いた。
そして、その日の夕方には、雪はスーツケースを片手に月虹の紹介したヘルスの戸口に立っていた。母親も安っぽい連れ込みホテルの受付で働けることになった。
雪ちゃんから、実はまだヴァージンなのと言う話を聞き、月虹は初花を買ってやろうと言う旦那を気合を入れて捜した。借金の10分の一が片付くほどのご祝儀の金額に驚いた雪ちゃんは、月虹にお礼だと言って渡そうとしたが、月虹は受け取らなかった。
「それは、おめぇが身体を張って稼いだ金だ。そこいらの頭の軽い女がブランド品を買うような浮ついたものじゃない。正真正銘の値打ちのある金だ。」
雪ちゃんは、ほろほろと泣いた。
「早いとこ、自由になりな。雪。おめぇは何も汚れちゃいねぇよ。」
雪ちゃんが、「あたしを、月虹さんの女にして。」というのに、時間はかからなかった。
「おれをヒモにするのか?借金返済伸びるぞ。」
「いいの。あたし、月虹さんの傍に居たい……あたしのヒモで居て、月虹さん。時々はあたしを愛してね。」
「なんだよ、雪。知らなかったのか?おれは、はなっから愛してただろ?」
「そうだった。あたし……出会った時から月虹さんに、うんと甘やかされてたね。月虹さんにあえて本当に良かった。」
*****
月虹には何人かの女のヒモだが、彼女たちには大抵借金があった。
借金を返すために彼女たちは日毎身体を張る。
月虹は疲れた女たちに決して無理はさせなかった。
布団の中で優しく髪を撫ぜてやり、裸の丸い肩を抱き、胸を触りながら眠るまで話を聞いてやる。疲れ果てた女たちは、それだけで満たされて月虹の女で居たがった。
雪ちゃんと抱き合ってホテルに消える月虹の後姿を、涼介はじっと何か思いつめたように見つめていたが、やがて小さくため息を吐いた。
「……さてっと、おれはおやっさんを風呂に入れてやらないとな。」
本日もお読みいただきありがとうございます。
二足のわらじをはいた月虹の稼業は、なかなかややこしいのです。 此花咲耶
(°∇°;) BLのはずなのに……月虹がホテルに連れ込んだ雪ちゃんって、女だぞ。
良いのか?涼介。
(´・ω・`) 涼介 「おれは、おやっさんを風呂に入れてやらないと……」
全身で好きだって言ってるのに、月虹のにぶちん……ね~(*´・ω・)(・ω・`*)
母親と二人暮らしの雪は、月に一度のご褒美に兎やの「きんつば」をねだった。月に一度と言うのは、月虹が集金に出向く日の事だ。
「肉体労働しているとね、無性に甘いものが食べたくなっちゃうのよね。それに、母ちゃんもこれが好きなの。一緒に食べるんだ。」
お金できたよ~♡とメールをしてきたファッションヘルスの雪ちゃんは、気の毒な境遇の女の子だった。
雪ちゃんの父親は、工場を経営していたが多額の借金をして首が回らなくなり、ある日突然妻子を置いて蒸発してしまった。どうしようもなくなった母子が、借金取りからあちこち逃げ回っていたのを月虹が見つけた。看護学校に入学する予定だったと、かなり後から聞いた。
月虹が組長代行を務める小さな鴨嶋組には金がなく、親組から回ってくる債権の束を処理するのも仕事の内だった。本業のホストの傍ら、月虹は、高齢の組長に代わって逃げ回る債権者を見つけて集金している。
見つけた親子を親組に渡さず鴨嶋組に連れ帰った月虹は、化粧気のない顔に向かって、組長の代わりに話をした。
雪は18歳になったところだった。
「本気で父親の借金を返す気があるかい?逃げ回っていちゃ、いつまでたっても今の暮らしが終わらない。覚悟を決めて、お終いにしないといつかは親子で首をくくるしかなくなるぜ?父親の方も、見つかったらただじゃすまないだろうしな。」
「父ちゃん……お父さんは、捕まったらどうなるんですか?」
「さあなあ……。おれの知ってる限り、今のままだと命の保証はできないな。」
「……どうすればいいですか?教えてください。わたしも、逃げ回るだけの暮らしなんて、本当は嫌です……看護師になる夢だってあったのに……看護学校だって合格してたのに。このままで、終わりたくないです。」
月虹は雪と名乗った少女を母親から引き離し、廊下で話をした。
「女に生まれて運が良かったな。あんたには返すもんがあるだろう?夢があるなら、なおさら良い。きっちり借金にカタ付けて新しく人生やり直す勇気を持ってみるか?あんただったら、二・三年もあれば借金何ざ終わっちまうだろうさ。おれが中に入って話を付けてやるよ。金も立て替えてやるから、おれに月々返しゃあいい。店もおれが世話してやる。頑張ってみな。」
そんな月虹の言葉を、雪ちゃんはうんうんと頷きながら聞き、しばらくの間、月虹の胸で泣いた。
そして、その日の夕方には、雪はスーツケースを片手に月虹の紹介したヘルスの戸口に立っていた。母親も安っぽい連れ込みホテルの受付で働けることになった。
雪ちゃんから、実はまだヴァージンなのと言う話を聞き、月虹は初花を買ってやろうと言う旦那を気合を入れて捜した。借金の10分の一が片付くほどのご祝儀の金額に驚いた雪ちゃんは、月虹にお礼だと言って渡そうとしたが、月虹は受け取らなかった。
「それは、おめぇが身体を張って稼いだ金だ。そこいらの頭の軽い女がブランド品を買うような浮ついたものじゃない。正真正銘の値打ちのある金だ。」
雪ちゃんは、ほろほろと泣いた。
「早いとこ、自由になりな。雪。おめぇは何も汚れちゃいねぇよ。」
雪ちゃんが、「あたしを、月虹さんの女にして。」というのに、時間はかからなかった。
「おれをヒモにするのか?借金返済伸びるぞ。」
「いいの。あたし、月虹さんの傍に居たい……あたしのヒモで居て、月虹さん。時々はあたしを愛してね。」
「なんだよ、雪。知らなかったのか?おれは、はなっから愛してただろ?」
「そうだった。あたし……出会った時から月虹さんに、うんと甘やかされてたね。月虹さんにあえて本当に良かった。」
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月虹には何人かの女のヒモだが、彼女たちには大抵借金があった。
借金を返すために彼女たちは日毎身体を張る。
月虹は疲れた女たちに決して無理はさせなかった。
布団の中で優しく髪を撫ぜてやり、裸の丸い肩を抱き、胸を触りながら眠るまで話を聞いてやる。疲れ果てた女たちは、それだけで満たされて月虹の女で居たがった。
雪ちゃんと抱き合ってホテルに消える月虹の後姿を、涼介はじっと何か思いつめたように見つめていたが、やがて小さくため息を吐いた。
「……さてっと、おれはおやっさんを風呂に入れてやらないとな。」
本日もお読みいただきありがとうございます。
二足のわらじをはいた月虹の稼業は、なかなかややこしいのです。 此花咲耶
(°∇°;) BLのはずなのに……月虹がホテルに連れ込んだ雪ちゃんって、女だぞ。
良いのか?涼介。
(´・ω・`) 涼介 「おれは、おやっさんを風呂に入れてやらないと……」
全身で好きだって言ってるのに、月虹のにぶちん……ね~(*´・ω・)(・ω・`*)