夜の虹 8
月虹がスナックに通い始めて、きっちり数えて20日目。
涼介は族上がりの兄貴分、六郎と共に、月虹に言われた通りスナック「花菱」に嫌がらせにやってきた。
段取りはついている。
「店内で喧嘩して、グラスのいくつかも割ってくれればそれでいい。その後、難癖付けてママに絡んでくれればおれが出てゆくから。できるか?」
「兄貴の為なら何だってやります!おれ、学芸会で桃太郎やった事あります!(`・ω・´)」
「ぷっ。学芸会ってなんだよ、涼介。」
六郎が噴いた。
「おお、頼もしいなぁ、涼介。がんばれよ。」
「任せてください。」
*****
小一時間後。
予定通り派手な音を立てて、カウンターのガラスコップのタワーが崩れた。
「きゃあーっ。」
店内に悲鳴が響く。
「おい、ママさんよ~、何だかこの酒、水っぽいんじゃないか?あんた、おれらの足元見て、安酒入れただろう?」
顔色が変わったところを見ると、まんざら当てずっぽうも外れではないらしい。
若いチンピラが絡むのを月虹はカウンターの端で、静かにやり過ごそうとしている。
「ニッカ入れておいて、値段はレミー並みってひどすぎねぇか?おばちゃんよぉ!」と、涼介が凄んでみせた。
「高級なのは値段だけかよ?あ~ん?ぼったくりもいいとこだな。」
ちらと、月虹をみやってこちらにも絡む。
「おい、兄さん。いい男が、こんなしけた店で安酒飲んでねぇでさ、おれの知ってるスナックに移らない?う~ん?何だ、これも薄い水割りだなぁ。ねぇ、ママさん、どこにショバ代払ってんの~?」
月虹はしばらくそのままにしておいたが、店内いた数人の女性客が逃げ帰るとおもむろに立ちあがった。低い良く通る声が、客の居なくなった店に響く。
「……兄ちゃん達よ。ガキがいきがってやんちゃするのもいいけどな。この店とこの女は鴨縞組の仙道月虹が気に入ってるんだ。そこいらで、手出しは止めておいた方が良いんじゃねぇか?それとも、親を呼んできちんと話させてもらおうか?」
「え……?まさか、鴨縞組の仙道月虹……さん?ご本人さんすか?」
「ああ。名前くらいは知ってるだろう?」
「すっ……すみませんでした!二度と悪さしないんで勘弁してください。」
「あそこの店は、もう鴨嶋組の息がかかってましたって、上の者にもきっちり言っておくんだな。」
「仙道さんの女の店だなんて知らなかったんで、勘弁してくださいっ。ナシ(話)通しておきます!」
毛足の長い絨毯に、ぺたりと這いつくばった若者の様子をじっと見ていたママが、月虹の耳朶にささやいた。
「ねぇ。あたし、いつからあなたの女になったのかしら……」
「すみません。出過ぎた真似をしました、居心地がいいんで、この場所を失くしたくなかったんですよ。でも、表向きだけでもそういう事にしておいてくれませんか?そうすれば、今日みたいな面倒なことにはならないと思いますんで。」
「そうね。鴨縞組さん。来月からカウンターに飾るお花を入れて頂戴。あんな輩にうろうろされるくらいなら、あなたが集金に来てくれた方がいいわ。」
それは、安い花を入れる名目で、みかじめ料を払うことにしたという事だった。こうしてスナック「花菱」は、鴨縞組の息のかかった店になった。月虹は駄目押しをかけた。
「ママさん。無理しなくていいんですよ。おれは、ここが気に入ってるから一杯飲めればそれでいいんです。おれが店にいる時は、あんなやつらに手出しさせません。」
「実はね、打ち明けるとよそにも花と絵を入れさせてくれって言われてるの。きっと女一人で営業しているから、軽く見られてるのね。でも、どうせ払うのならあたしは、あなたが良いわ。店と一緒にあたしの面倒も見てくれるんでしょう?ほんとは知ってるのよ、二足草鞋のホストの月虹って有名ですもの。ねぇ……一突きで天国へ連れて行ってくれるって噂は本当……?」
ママの目が潤み、月虹の下肢をうっとりと視線で舐め上げた。太腿に手を置き、ネイルの指が跳ねるのを月虹の長い指が摘み上げた。
「一手試しますか?……これまで、美人には縁がなかったんですけどね。お望みならいつでも竿に磨きをかけてお相手しますよ。」
「紗由美よ。よろしくね、男前の組長代行さん。来て。あっちに仮眠室があるの。」
月虹の視線が、開いたブラウスから零れそうになった甘く蕩けた乳房に向けられた。
それから少し経って、スナック「花菱」の灯が消えた。
どこかで雌猫の盛る甘えた声がする。
本日もお読みいただき、ありがとうございます。此花咲耶
「おれ、学芸会で桃太郎やった事あります!」(`・ω・´)←涼介
(*⌒▽⌒*)♪「そうか、頼もしいな。がんばれよ。」←月虹
(´-ω-`)「なんだ、それ……つか、いつの話だっつ~の。」←兄貴分の六郎、余りでてきませんが、やんちゃな族あがり設定です。
どうやら、月虹のお仕事は上手くいったみたいです。
でも、その後、涼介は……
涼介は族上がりの兄貴分、六郎と共に、月虹に言われた通りスナック「花菱」に嫌がらせにやってきた。
段取りはついている。
「店内で喧嘩して、グラスのいくつかも割ってくれればそれでいい。その後、難癖付けてママに絡んでくれればおれが出てゆくから。できるか?」
「兄貴の為なら何だってやります!おれ、学芸会で桃太郎やった事あります!(`・ω・´)」
「ぷっ。学芸会ってなんだよ、涼介。」
六郎が噴いた。
「おお、頼もしいなぁ、涼介。がんばれよ。」
「任せてください。」
*****
小一時間後。
予定通り派手な音を立てて、カウンターのガラスコップのタワーが崩れた。
「きゃあーっ。」
店内に悲鳴が響く。
「おい、ママさんよ~、何だかこの酒、水っぽいんじゃないか?あんた、おれらの足元見て、安酒入れただろう?」
顔色が変わったところを見ると、まんざら当てずっぽうも外れではないらしい。
若いチンピラが絡むのを月虹はカウンターの端で、静かにやり過ごそうとしている。
「ニッカ入れておいて、値段はレミー並みってひどすぎねぇか?おばちゃんよぉ!」と、涼介が凄んでみせた。
「高級なのは値段だけかよ?あ~ん?ぼったくりもいいとこだな。」
ちらと、月虹をみやってこちらにも絡む。
「おい、兄さん。いい男が、こんなしけた店で安酒飲んでねぇでさ、おれの知ってるスナックに移らない?う~ん?何だ、これも薄い水割りだなぁ。ねぇ、ママさん、どこにショバ代払ってんの~?」
月虹はしばらくそのままにしておいたが、店内いた数人の女性客が逃げ帰るとおもむろに立ちあがった。低い良く通る声が、客の居なくなった店に響く。
「……兄ちゃん達よ。ガキがいきがってやんちゃするのもいいけどな。この店とこの女は鴨縞組の仙道月虹が気に入ってるんだ。そこいらで、手出しは止めておいた方が良いんじゃねぇか?それとも、親を呼んできちんと話させてもらおうか?」
「え……?まさか、鴨縞組の仙道月虹……さん?ご本人さんすか?」
「ああ。名前くらいは知ってるだろう?」
「すっ……すみませんでした!二度と悪さしないんで勘弁してください。」
「あそこの店は、もう鴨嶋組の息がかかってましたって、上の者にもきっちり言っておくんだな。」
「仙道さんの女の店だなんて知らなかったんで、勘弁してくださいっ。ナシ(話)通しておきます!」
毛足の長い絨毯に、ぺたりと這いつくばった若者の様子をじっと見ていたママが、月虹の耳朶にささやいた。
「ねぇ。あたし、いつからあなたの女になったのかしら……」
「すみません。出過ぎた真似をしました、居心地がいいんで、この場所を失くしたくなかったんですよ。でも、表向きだけでもそういう事にしておいてくれませんか?そうすれば、今日みたいな面倒なことにはならないと思いますんで。」
「そうね。鴨縞組さん。来月からカウンターに飾るお花を入れて頂戴。あんな輩にうろうろされるくらいなら、あなたが集金に来てくれた方がいいわ。」
それは、安い花を入れる名目で、みかじめ料を払うことにしたという事だった。こうしてスナック「花菱」は、鴨縞組の息のかかった店になった。月虹は駄目押しをかけた。
「ママさん。無理しなくていいんですよ。おれは、ここが気に入ってるから一杯飲めればそれでいいんです。おれが店にいる時は、あんなやつらに手出しさせません。」
「実はね、打ち明けるとよそにも花と絵を入れさせてくれって言われてるの。きっと女一人で営業しているから、軽く見られてるのね。でも、どうせ払うのならあたしは、あなたが良いわ。店と一緒にあたしの面倒も見てくれるんでしょう?ほんとは知ってるのよ、二足草鞋のホストの月虹って有名ですもの。ねぇ……一突きで天国へ連れて行ってくれるって噂は本当……?」
ママの目が潤み、月虹の下肢をうっとりと視線で舐め上げた。太腿に手を置き、ネイルの指が跳ねるのを月虹の長い指が摘み上げた。
「一手試しますか?……これまで、美人には縁がなかったんですけどね。お望みならいつでも竿に磨きをかけてお相手しますよ。」
「紗由美よ。よろしくね、男前の組長代行さん。来て。あっちに仮眠室があるの。」
月虹の視線が、開いたブラウスから零れそうになった甘く蕩けた乳房に向けられた。
それから少し経って、スナック「花菱」の灯が消えた。
どこかで雌猫の盛る甘えた声がする。
本日もお読みいただき、ありがとうございます。此花咲耶
「おれ、学芸会で桃太郎やった事あります!」(`・ω・´)←涼介
(*⌒▽⌒*)♪「そうか、頼もしいな。がんばれよ。」←月虹
(´-ω-`)「なんだ、それ……つか、いつの話だっつ~の。」←兄貴分の六郎、余りでてきませんが、やんちゃな族あがり設定です。
どうやら、月虹のお仕事は上手くいったみたいです。
でも、その後、涼介は……