夜の虹 13
耳朶に甘く息がかかる。
「なあ……清介。おれ等、親友だろ?」
「う……ん。」
「親友で恋人同士ってすごく良いよな。な、恋人同士、今から愛を確かめ合おうぜ。おれ、清介の身体が一番相性いいんだ。来いよ。」
清介には、抗えなかった。
生徒会長の特権を振りかざし、誰も入ってこないように入室禁止の札を下げると、月虹は本能の赴くままに清介のシャツを剥いだ。力無く拒む清介が、大勢の中の一人にすぎない自分に涙しているなどと、月虹は気付かない。
ただ一人の相思相愛の相手になりたいと、口に出来ないほど気弱な清介を深く傷つけていることも知らず、月虹はどこまでも自由奔放だった。
そうなるように育てられた特殊な環境にも、理由があったのかもしれない。
慣れた手つきでローションを垂らし、薄く汗ばんだ清介の分身に優しく触れた。
「あ……あ……」
「ほら。足広げろよ。気持ちいいだろ?」
月虹にやわやわと揉まれて固くなってしまった中心が、更なる刺激を求めてふるりと揺れる。
与えられた刺激に簡単に育ってしまう自分が悲しいと思っても、肉体は清介の気持ちを裏切った。拒絶の気持ちはすぐに萎えて、伸ばされた月虹の指を求めて、浮いた腰が震えるのが情けなかった。
感情を他所に、内側から身体が火照ってくる。
月虹の指は的確に、清介を追い詰めてゆく。
「あぁ……っ!」
少し前に生徒会室から出て行った風紀委員長と同じ匂いがしたのに気付き、清介は本気で拒もうとした。だが、両手はもうシャツで背後に縛められてしまい、自由にはならなかった。
月虹の行為を否定する涙が、いくつも強張った頬を転がってゆく。
誰かを抱いた匂いが消えないうちに、平気で自分を抱く月虹が許せなかった。
清介の気も知らず、月虹は口腔を貪りながら、器用になだらかな胸を摘み上げ尖らせてゆく。
「いやだぁ……」と、悲鳴のように洩れた声は、もうただの喘ぎにしか聞こえなかった。
追い詰められて、清介は哀しい吐精をした。
「いやだって言いながら、感じてるんだろ?」
残酷な月虹が酷薄に微笑む。
思わず身震いするほど、冴え冴えと端整な顔だった。
*****
清介は自分が月虹を慰めるだけの道具でしかないと思っていた。
行為を受け取るだけで、決して期待してはいけないのだと、何度も自分に言い聞かせていた。分かっていても、それは少しだけ悲しい。
それでも、清介は不実な恋人が好きだった。
月虹は、自分の愛は周囲に惜しみなく与えるべきものだと思っていた。自信家で傲慢な過去の月虹は、誰彼かまわず与え続ける行為が、自分だけを見つめる誰かの純真を傷つけるものだと知らない。
腰を打ち付け、二人の間に響く淫猥な水音が、互いを求め合うものだと信じていた。隠微な音がする度、清介の内側で何かが少しずつ壊れてゆくのに、月虹は気が付かなかった。
言葉少なに、自分に打ち付ける腰に揺さぶられながら、清介はじっと下から月虹の顔を見つめていた。
「どうした……?」
「う……ん。改めて見ると、ほんとに綺麗な顔だなって思って。」
「爺さんの若い頃に瓜二つらしいぞ。」
「ねぇ……月虹はぼくが好き?ぼくは……」
「余計なことは良いから……感じてろよ。」
「ん……」
軽い言葉は、清介を傷つけるばかりだった。
本日もお読みいただきありがとうございます。此花咲耶
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