夜の虹 19 【最終話】
「どういうことかしら。患者さん?……昨日きちんと押さえておいた傷が、ぱっくり開いてるんですけど?」
「ああ、すまん。ちょいとかる~く運動しただけなんだけどなぁ。」
「寝る前に、抗生物質を飲むようにって言っておいたはずよ。それも袋のまま置いてあるのね?」
「あ~……、忘れた。」
「すみません!……雪ちゃん。おれのせいなんです。おれが考え無しだったからいけなかったんです。兄貴に怪我させたのに……おれが……あの……っ」
部屋の片隅で、申し訳なさそうに涼介が頭を下げている。
上気したその頬に理由が描いてあり、雪ちゃんは我慢できずにくすくすと笑った。
優しい雪は、ちゃんと気づいていたらしい。
「涼ちゃん。月虹にいっぱい愛してもらった?」
涼介の顔が一瞬で、ぽんと完熟トマトになった。
「……はい。おれ、雪ちゃんには、もうずっと頭あがらないっす。色々とありがとうございました。」
「涼ちゃん。あたしのこと、今度から『姐さん』って呼んでもいいのよ。」
ヘルスの雪ちゃんは、うふふと笑った。
近寄った雪は涼介の耳元で、あのね……と、ささやいた。
「いい事、教えてあげる。あたしね……この前、お客さんに教えてもらったの。ハワイって、月虹が良く見えるんですって。」
「兄貴?……ですか?」
「ううん、月にかかる虹のこと。お日さまが作る虹は七色だけど、月の光でできる夜の虹は白いの。月にかかった虹を見た人には幸せが訪れるんだって。」
「夜の虹……」
「だからね、あたしたちはきっと幸せになれるわ、涼ちゃん。だって、こんなにすぐ傍で月虹を見てるんですもの。」
「はい。そうっすね、きっと。」
傷の手当てを終えた全裸の月虹は、満月に照らされて発光して見えた。
幸せな姉弟のように抱き合った雪と涼介に微笑みかけ、おいでと手招きした。
カーテンの隙間に切り取られた空に、夜目に白く輝く月虹が、輝いていた。
「夜の虹」―完―
※ハワイ諸島のマウイ島では、月虹がよく観測される。
これを見た者には「幸せが訪れる」「先祖の霊が橋を渡り祝福を与えに訪れる」と言われている。
長い間お読みいただき、ありがとうございました。
ひとまず完結いたしました。
涼介が家を出たころの話とか、月虹のちびっこのころのお話とか……書き残したエピソードは色々あるのですが、そのうちまた書いてゆきたいと思います。
読んでみたいお話などありましたら、お教えいただけたらと思います。
たくさんの拍手、感想コメントをいただき、日々の励みになりました。
望外の幸せでした。とてもうれしかったです。
では、又新しいお話でお目にかかりたいと思います。(*⌒▽⌒*)♪此花咲耶
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