優しい封印 10
心配しているはずの母親に、連絡だけでもしたかった。
「あ、あの……月虹さん。この電話を借りてもいいですか?お母さんに連絡したいです。」
「いいぞ。好きに使え。」
「ありがとうございます。」
そう言ったきり、月虹は其の場に涼介を残し、自室へと消えた。
鴨嶋組の電話は、親組からかかってくることが多い。組長が高齢であることもあって、用件の聞き落しがないよう、必ず数人が聞けるように内線に複数の端末接続をしていた。
そんなことを知らない涼介は、周囲に話が聞こえないように、小さく声を潜めた。
「……もしもし。お母さん。あのね……涼介だけど……うん、うん。おれは大丈夫。だけど……あの、そっちは?お母さんは平気?」
たった二日間離れていただけなのに、母の声を聴くと、安堵してどっと涙が溢れた。母も心配させてはいけないと、必死に元気そうに声を張る。涼介は母を、母は気丈に息子の心配をしていた。
「あのさ、お父さんは、まだうちに帰ってないんでしょう?お父さんが……おれを逃がしてくれた後、どうなったかわからないんだ。お母さんにしばらく家に帰らない方がいいって、伝えてくれって言ってたけど……お父さんは、大丈夫なのかな?おれは……えっと……ここ?居場所?……ここの住所は、えっと……。」
すっと現れた月虹が、涼介の腕から電話を取り上げた。
「貸しな。お母さんだろう?」
「あ、はい。」
「……初めまして。仙道月虹と言います。涼介君と花菱町で知り合いまして、どうやら訳ありの様だったので、差し出がましいと思ったのですが、一先ず自宅に連れてまいりました。家出してきたのなら、警察かとも思ったのですが、事情を聴いてからと思いまして。……はい。うちには年寄りが居りますので、一人にするようなことはありません。話し相手が出来て喜んでいるような具合です。差支えなければ、しばらくこちらでお預かりさせていただいて……住所は、お伝えしてよろしいですか……」
それからしばらくの間、月虹は涼介の母と話し込んでいた。
話をする月虹を見つめていた涼介は、ほら、もう一度お母さんと話するだろう……と言われて、はっと我に返った。
姿の良い男に、うっかりと見惚れていた。
「……お母さん?お父さんの事、何かわかった?」
母は、正直に求から聞いていたことを話した。
求の実の両親が、本家を頼って借金を重ねた事。求を連れ去ったのは、求が養子に入った家の義兄だということ。
本家には子供がいたが、どうしようもない放蕩者で、分家から求を養子に迎えこと。
それ以上は、とても涼介には話しても理解できないと思える話で、母は口を濁したが、数日後、そちらに行くから待っていなさいとだけ告げた。
「ちゃんと、そちらのおうちの方にお願いしたからね。涼介は何も心配しなくていいから、お世話になっていなさい。お母さん、何日かしたらそちらに行くから。」
「う……ん。……お父さんは大丈夫かなぁ……。」
「お父さんのことは、お母さんも諦めない。残念だけど、あちらのご家族はとても体面を重んじる方だから警察には話せないの。お母さんは、無理を言って会社の母子寮に居させてもらってるから、涼介もしばらくは……我慢してね。怖い目に遭わせてごめんね……」
電話口で鼻をすすった母に、涼介は明るく声を張った。
「母ちゃん。こっち来るとき、おれの着替え忘れないでよ。ここの人、みんな優しいんだ。晩飯は牛丼をご馳走になったんだ。かっこいいお兄さんと渋い爺ちゃんがいてさ、おれ仲良く出来そうなんだ。大事にしてもらってるから、心配しないで。」
心細さに押し潰されそうな涼介の心の内を、月虹はわかっていた。
「えらかったな、涼介。」
受話器を置いた涼介が、その場にしゃがみ込んだのを、ぽんぽんと背中を撫でてやった。
本日もお読みいただきありがとうございました。
なんとかお母さんと連絡がついた涼介です。(´・ω・`) 「うりゅ……」
「こわい目に遭わせてごめんね。」(。´・ω`)ノ(つд・`。)・゚+「お母さん……」
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