優しい封印 11
元々、母親と二人暮らしが長かったせいで、大抵の家事はこなせる。
「えっと……味噌汁と、卵焼きくらいはできるかな。」
冷蔵庫を覗き、有りあわせの食材で朝食を作った。
ほうれん草と油揚の味噌汁、一切れだけ残っていたサケの切り身をおにぎりにし、厚焼き卵を作った。
「朝っぱらから良い匂いがすると思ったら、朝飯を作ってくれたのかい?」
「あ、じいちゃん。おはようございます。勝手に台所を借りるのはどうかと思ったんだけど、みんな返事が無くて……。」
「いいってことよ。うちはみんな夜が遅いからな、朝は好き勝手に食うことになってるんだ。」
「じゃあ、じいちゃん坐ってよ。大したことはできないけど、え~と、一宿一飯……?」
「律儀なこったなぁ。一宿一飯の恩義を返そうってのかい?じゃあ、遠慮なく馳走になるかな。」
「材料はここの冷蔵庫にあった物だけどね~。」
鴨嶋劉二郎は、機嫌よく涼介の作った朝食に食した。不思議なことに劉二郎は涼介に何も尋ねなかった。
色々聞かれるだろうと想像し、何から話そうかと考えていた涼介は、思わずぽつりと尋ねてみた。
「じいちゃん……おれのこと、何も聞かないの?」
「話したいなら、聞いてやるがな。俺ぁ、話したくないことを無理やり聞き出そうなんざ思わねぇよ。話をするにしても、機というものがあるだろ?タイミングってのか?それにな、俺ぁ。この年になると何を聞いても大抵の事には驚かねぇぞ。」
「う……ん。おれね……お世話になるから、本当はきちんと話とかしたいんだけど、正直言うと頭の中でぐるぐるしちゃって、うまく言葉にならないんだ。昨日……お母さんと話が出来て、ちょっと落ち着いたけど……ごめんね、じいちゃん。いつか、ちゃんと話せると思うから、もう少しだけ考えさせて下さい。」
劉二郎は黙って空いた椀を差し出した。
「涼介。飯が終わったらじいちゃんと商店街に行くか?」
「近くに商店街なんてあったんだ。」
「おう。半分はシャッターが下りてるけどな。うまい朝食食わせてもらったからな、茶碗やら箸やら、買ってやるよ。俺に付き合え。」
*****
しばらくすると、六郎という男が台所に顔を出した。
「おやっさん。遅くなってすんません……あれ?もう飯、食ったんすか?」
「おう。涼介が上手い味噌汁を作ってくれてなぁ。大したもんだぞ。お前も食え。」
「……味噌汁……って。冷蔵庫の味噌って、確か、賞味期限切れ……」
劉二郎の目線一つで黙り込んだ六郎は、自らよそうと黙々と飯をかき込んだ。
「確かにうまいっすね。」
「だろ?これから涼介と商店街に行ってくらぁ。おめぇも財布持って付いて来い。」
「わかりました。」
半年も前に賞味期限が切れていた味噌が捨てられているのに涼介が気付いたのは、その日の昼だった。
「あっ……これ。……じいちゃん。おれ、気が付かなくてごめん……。あの味噌、古かったみたいなんだ。お腹痛くならなかった?」
「そんな柔な、年よりじゃねぇぞ。それよりな、六郎に適当に、食材を買って来いと言っておいたんだが、使えるものがあるか冷蔵庫の中を見てみな。」
冷蔵庫の中には、劉二郎に言われて揃えた新しい食材がぎっしりと入り、涼介を待っていた。
「俺ぁな。味噌汁食ったのはずいぶんと久しぶりだった。バシタが料理が上手くてな、金を掛けずに美味い料理をこしらえるんだ。涼介の飯は、懐かしい味がしたぜ。また、うまい味噌汁を作ってくれねぇか。」
「……うん。おれも、じいちゃんと飯食えてうれしかった。朝ご飯、毎日作るね。」
「涼介は良い子だなぁ。」
じんわりと温かいものが互いの中に広がった。
本日もお読みいただきありがとうございます。(*⌒▽⌒*)♪
鴨嶋組で居場所を見つけた涼介です。
でも、きっと涼介は組とか任侠とかわかっていません。しかも、これから……■━⊂( ・∀・) 彡 ガッ☆`Д´)ノ
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