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優しい封印 5 

必死に伸ばそうとした求の腕は、涼介に触れなかった。
涼介を心配する求の声も、直ぐに自分に加えられる痛みに呻く物へと変わった。

「お……と……さん……?」

「うっせぇな。くそ餓鬼、ちょっと黙ってろ。大人の時間を邪魔するんじゃねぇぞ。」

「や、やめてくれ。その子に、ひどいことをしないでくれ。義兄さん、頼むから……」

「お前がいい子にしてたら、何もしやしないよ。求~、兄ちゃんはいつだってお前の事大事にしてただろ?なぁ……」

「やめてくれ……」

男の腕の中で、弱々しく求が抗った。
求から離れた男が、涼介の着ている長袖のシャツを剥ぐと、軽々と背中でそのまま両手を縛めてしまった。膝までずらされたズボンは、あっさりと細い足の枷になった。酸素を求めて喘いだ口に、そのあたりに落ちていた布きれを詰め込まれ、抗う間もなく容易く涼介は転がされた。
一体何が起きているのか、理解できなかった。予期せぬ客に、いきなり加えられた暴行にただ驚愕していた。

『強盗……?でも、家にはお金なんてないのに……?』

身体の自由を奪われた現実に、思考が付いて行かない。夜目に慣れて来た涼介の視界に、恐ろしい光景が広がっていた。
街燈の明かりが入る室内は目が慣れて来ると案外明るく、薄いシャツを羽織っただけの男の背中がはっきりと見えた。透けた何かが見えるのは、背中に何か極彩色の模様が入っているからだと分かる。

『あれ……刺青?……でも、だったら何で、893がおれの家に?』

求の白い足が、もがくように空をかいた。獣のような咆哮を上げて、男は求を蹂躙していた。薄い求の身体が、白く浮いて見える。

「何年も逃げ回りやがって。なぁ、求。お前はガキの頃からいつだって俺の物だったろ?やっと捜し出したぜ。」

「……いや、だ。もう、ぼくは間島の家と縁を切ったんだ……義兄さんとも、もう……」

「やかましいっ。俺は縁を切るなんて言った覚えはねぇんだよっ!」

何度か高い平手打ちの音が響き、力なく抗う求の声がやがて弱々しく涙声に代わった。引きつるような嗚咽が、涼介を守る哀訴に代わった。

「やめて……くれ。あの子は何の関係もないんだ。許して……くれ。」

「何を許すんだ?お前がおれから逃げた事か?勝手に結婚した事か?俺は求には優しいからな、さあ、どうして欲しいか言ってみろよ。おまえは昔から、こうされるのが好きだったろう。」

男は求の両足の間に、ぐいと身体を進めた。

「うっ……ああっ……あーーっ!……」

「いい声だ……やっぱり俺はお前が良い。二度と俺から逃げようとするなよ、なあ、求。求……っ!俺に逢えなくて寂しかったって、言えよ。」

どれ程の時間が経っただろう。
薄闇の中で蠢き続ける男の背中を睨みつけて、声も出せぬままいつしかぼろぼろと泣いていた。何もできない自分が悔しくて悲しかった。

ほんの数時間前まで、二人きりで過ごすこの土日をどれほど楽しみにしていたか、母が焼くほど仲の良い、なさぬ仲の親子だった。
前後に激しく身体を叩き付け求を揺すった男が、思いを遂げてゆらりと、幽鬼のように立ち上がった。先ほどまで求を苦しめていた凶暴な陽物の影が、乏しい光の中でてらてらと光り、おぞましいほど不気味だった。

春先だと言うのに、室内の空気は凍り付いているような気がする。
涼介の全身は、恐怖で粟立っていた。求はぐったりと倒れ込んだまま身じろぎもしていなかった。

「一汗かいたから、ちょいと流して来るか。逃げるんじゃねぇぞ、求~……って動けねぇか。あはは……後でもっと可愛がってやるからな。くそ餓鬼も一緒に可愛がってやるから待ってろよ。」

「う……やめ……ろ……。涼介に手を出すな……」

「なんだ。気を失ったんじゃなかったのか。」

男は求の上半身をぞんざいに抱き起こし、耳元でささやいた。

「や・め・な・い。」

求の口腔を咬みつく様にむさぼると、その場に人形のように投げ捨てた。
引っかけただけのシャツを脱ぎ捨てて、全裸になると見当をつけて風呂へと向かった。

廊下の電気が点けられ、筋肉質の広い背中に、鮮やかな緋鯉が踊るのが見えた。
それは睨みつける涼介の目に、焼きついた。




本日もお読みいただき、ありがとうございます。

目に焼き付いた緋鯉の入れ墨。
この先、涼介は……(´・ω・`)

( *`ω´) くそ~、此花のやつ~~
ヽ(゚∀゚)ノ……えへへ


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2 Comments

此花咲耶  

nichika さま

> (`・ω・´) 此花ちん  頑張れ  

(〃゚∇゚〃) がんばります~♡

>この情景読んでてふつうは嫌になるはず 

きっと男同士なんて、考えもつかなかったと思います。きっと月虹だけが大好きなのです。

>893もどきの月虹さんに涼介さんがひかれたのか  なぞは深まります

最初の出会いの時は、ホストの月虹でした。だからかなぁ……(〃゚∇゚〃) ←考えてるのか~
これから出会いの場面も書いてゆきます。
前の作品をお読みでない方にも、ちゃんと伝わるといいな……

(*⌒▽⌒*)♪コメントありがとうございました。

2013/05/22 (Wed) 07:22 | REPLY |   

nichika  

(`・ω・´) 此花ちん  頑張れ  この情景読んでてふつうは嫌になるはず 893もどきの月虹さんに涼介さんがひかれたのか  なぞは深まります

2013/05/21 (Tue) 22:54 | EDIT | REPLY |   

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