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優しい封印 3 

そんな会話を涼介が知る由もなかったが、学校から帰宅したとき、何もない部屋で母が一人泣いていたことがあった。

「え?母ちゃん、泣いてんの?どうしたの?求さんと喧嘩でもしたのか?」

「ああ、涼介、お帰りなさい。あのね、求さんのご実家に、ご挨拶に行って来たの。あたしは、結婚なんて形はどうでもいいって言ったんだけど……でも、あの人はご両親に別れる気はないって言ってくれたの。それがすごくうれしかったの。涼介……求さんの事、どう思う?」

「おれは母ちゃんが好きな人なら、きっといいやつだって思うよ。それに、求さんは本気で母ちゃんのこと好きだよ。でなきゃ、いくらおれが可愛くても子連れバツイチと結婚しようなんて思わないって。」

「……いくらおれが可愛くてもだと~?」

「あはは。」

「仲良くやっていけそう?」

「う~ん。今のところはね。ゲームやってるときは、いい大人のくせして子供っぽいな~って思うけど、男なんてみんな子どもだって、いつも母ちゃん言ってるじゃん。」

「そっか~。やっぱり本気で一緒に暮してみるかな。涼介は、無理して父ちゃんなんて呼ばなくてもいいからね。籍を入れるかどうかはもっと時間をかけて考えるよ。求さんは縁を切るって言うけど、何だかあちらのご家族のことも気になるしね。」

「おれはいつだって、母ちゃんの味方だからな。」

「ありがと。いい男になったね、涼介。」

そんなやりとりがあって、母と涼介の名前は間島ではなく川口のままだった。
ぎこちなく家族として一つ屋根で暮らすうち、涼介は何時しか自然に、求をお父さんと呼ぶようになってゆく。

*****

父と母と涼介、三人が幸せな生活に慣れた頃、全てを粉々に引き裂く事件は起こった。

会社の慰安旅行に、参加したいと母が言いだした。
それは、涼介と求を二人きりにして、まだどこか遠慮しあう親子の距離を縮めようと、考えての事だったかもしれない。

「でも、ほんとに大丈夫?」

「大丈夫。お父さんと二人で留守番してるよ。土日だもん、学校も休みだしゆっくりしておいでよ。男同士、話もあるしさ。」

「そうだよ。心配はいらないよ。ゲームセンターに行って、映画館に行く予定なんだ。トランスフォーマーを二人で見るんだ。君はそういうのに興味ないだろう?」

金曜の夜、母は小さなスーツケースに荷物を詰めると、手を振った。

「嫌いじゃないけど、やっぱり温泉の方がいいわ。近くに友達もいるから、会って来る。じゃ、求さん。涼介の事お願いね。」

「大丈夫。お父さんの面倒は、おれがきちんとみるから。」

「そうね。ご飯ちゃんと食べさせてあげてね。」

「ひどいな~。ぼくの方が手のかかる子供みたいじゃないか。」

「お父さん。せめて、潰れない目玉焼きが出来るようになってから、言おう。」

「こいつめ~。」

他愛のない会話を交わして、三人は笑った。何気ない日々に、些細な幸せの欠片が転がっていた。

だが、その日を境に、家族は二度と揃って食事を取ることはなくなる。




本日もお読みいただき、ありがとうございます。

(*⌒▽⌒*)♪ なさぬ仲の父と子はとても仲が良いのです。
でも、じわじわと黒い影が忍び寄ってきます……(´・ω・`) ←


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