優しい封印 4
「涼介君、帰ってきたら思いっきりゲームな!」
「うん。母ちゃんがいないから、やりたい放題だな。おやつと夜食、買っといてね、お父さん。思いっきり夜更かしするから。」
「よっし!今夜は寝かせないぞ~。」
「なんだよ、それ。使い方を間違ってる気がするぞ。つか、おれもうすぐ受験だけどいいのかな~。」
「たまには息抜きも必要だって。」
二人、どこか弾んだ気持ちで別れた。
この後に求が遭った災厄を思い起こす度、涼介は余りに無力だった自分が情けなくて枕を濡らした。
何年経っても忘れることなど無い悲しく過酷な記憶を、涼介は長い間、胸の奥深くに封印した。心を許せる存在に、打ち明けたのもずっと後だった。
*****
「……あれ?珍しいな。」
浮き立つ気持ちのまま塾から急ぎ帰ってきた涼介は、アパートの前に止まった黒い車に違和感を感じた。窓に黒いシートを張った大きな外車が、このあたりに止まっていたことはない。
外から見上げた明かりの無い部屋に入ろうとして、玄関の味気ない鉄の扉が薄く開いているのに気が付いた。
「あれ、開いてる。……お父さん……?いないの……?コンビニかなぁ。」
几帳面な求が、きちんと扉も締めずに出かけたとは考えにくかった。
かた……と室内から聞こえた物音と、くぐもった声に、思わず涼介は飛び込んだ。求に何かあったと直感した。
「お父さんっ?」
「逃げろっ……!涼介……来るんじゃな……いっ、ぐっ!」
「お~?可愛い息子のお帰りか。」
明るい声を涼介に掛けた男は、求に馬乗りになっていた。
「……誰だ?お父さんから離れろよっ!おまえ!何やってんだよっ!」
闇雲に、求に覆いかぶさった大きな背中を蹴ろうとして、振り払われた涼介の身体は思い切り床に叩き落された。
「うあっ!?」
背中を強く打って息が出来なくなった涼介は、酸素を求めて水を失った魚のように喘いだ。
「あうっ……うっ……」
「涼介!大丈夫か?涼介……ああっ……」
悲痛な求の声が響く。
涼介は大切な母の想い人を、護れなかった。
本日もお読みいただきありがとうございます。此花咲耶
どんどん暗い方へと……(。´・ω`)ノ(つд・`。)・゚+「お父さん……」
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