ずっと君を待っていた・17
8人の娘を全て、毎年生贄に捧げ、もう最後の娘になってしまったと、老いた両親は嘆いていた。
そこを通りかかったスサノオは、その最後の綺麗な娘を嫁にくれるのなら、自分が大蛇を退治してやろうと名乗りを上げる。
自分は、神々の一人だから大丈夫だ、まかせておけというスサノオに、娘の命が助かるならばと両親は許可を与え、ヤマタノオロチ退治の物語は始まった。
スサノオは、酒をなみなみと入れた八つのカメを用意し、ヤマタノオロチに飲ませた。
酒を飲んで酔っ払ったオロチは、あっさりとスサノオに退治されたんだ。
「・・・そんな話だっけ?」
「クシちゃん、いくら何でもはしょりすぎだろう。」
大体は合っていると思うけどなぁ・・・と言うと、俺はね・・・と、青ちゃんが、遠い目をした。
「・・・というか、俺の記憶の中のいる大昔の俺はね、親とも折り合いが悪くて乱暴者でね・・」
「なんか、すごい自暴自棄で、ひどく荒れていたんだ。」
「国を創った神さまの末息子だったけど、思い通りになることは少ないし、遠くに居る母親には会えないし、姉ちゃん・・・って天照大神(アマテラスオオミカミ)っていうんだけど、そいつの出来は半端なく良かったし。」
あ、そういえばとぼくは思い出した。
「青ちゃん、俺のところの居候になったのも・・・」
似たようなことが原因だった。
さすがに途中で気が付いて、口ごもった。
あの頃、青ちゃんは荒れていて、2,3年前の事だけど、素行不良とかで警察のご厄介になったことさえあった。
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青ちゃんの父親は、ワンマンな会社の社長で、息子の進路もさっさと決めてしまうし、母親は気が弱くて何も言わなかった。
確か、お姉ちゃんは相当の美人でスカウトが来てたとか言ってたし、県内でも有数の進学校で、生徒会長まで務めるほどの才媛だったはず・・・
そんな所まで、見事にデジャブなのか・・・?
「警察に世話になった方は、若気の至りってヤツだな。」
引退したヤクザじゃあるまいし。
それにしてもね。
物心付く前から、いつも周囲に居てぼくを怖がらせた、あの怖くてたまらない「長いもの」。
怖かった原因が、やっとわかった。
ずっと、ぼくを見つめていたものの正体。
言われてみても納得は出来ないけど、積年の「想い」は確かにあったのだ。
長い長い時間を待って、やっと転生したと思ったら、ぼくは男で記憶を持った双子の片割れは、現世での姿を失くしていた。
長い間転生を待っていた「長いもの」にしてみたら、ぼくの方が残っているなんて最悪の状況なのだと思う。
ぼくを見て、さぞかし御当主ががっかりしたんだろうと思うと、何だか気の毒になってしまう。
だって、股間には自分と同じものがぶら下がっているんだよ・・・あんなの眺めたら(ご当主のなんてどんなのか知らないけど)千年の恋もきっと冷めちゃうよ、きっと。
本家にオロチとぼくをつなぐ鍵は確かにあった。
最後の秘密の扉が開くのも、きっともうすぐだ。
何とか、過去の詳細を知る人と、会って話をする工面はないのかと、ぼくはない知恵を絞った。
青ちゃんには、疲れたから詳しい話は後で話してねと伝え、思いついたことを試してみようと思った。
このまま、うじうじ考え込んでいたって仕方がない。
廊下の片隅で、花瓶の水を足している家人を見つけた。
おあつらえ向きに、一人だった。
小さく気合を入れた。
「よしっ!」
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