ずっと君を待っていた・15
今度こそ、現実世界なんだろうか?
「・・・クシちゃん・・・クシちゃん、大丈夫?」
「だいじょうぶじゃないっ。」
「どこもかしこも、大丈夫じゃない。」
目を開ける勇気がなかった。
もう、青ちゃんも誰も信じられない。
ここへぼくを連れて来た、親父もお袋も信じない。
あの、巨大な燃える目を見てしまった恐怖は大きかった。
「みんなのばかっ。知らないっ!」
「もう、誰も信用しないっ!」
固く閉じたぼくの目尻から、つっと涙が零れる。
「さあ。気が付いているなら、眼(まなこ)を開けよ。」
声のする方向に、天井から低く下がった梁がある。
大蛇の姿の、海鎚家当主がいるのだと思う。
怖くて目なんか開けられない。
ますます固く両の瞼に力を込めて、俺は薄い蒲団を引き上げて顔を覆った。
ぼくを食おうとしたやつの、話なんて絶対に聞かない。
ぼくは泣きながら枕に顔を埋め、わめいた。
「絶対に、やだ~~っ。ご当主の顔なんて、絶対見ないっ!神楽も知らないっ!も、帰るっ!」
「これではまるで・・・駄々っ子のようだ。では、昨日のような人の姿なら良いのか?」
「湯屋であった姿なら、目を開けられるか?」
少し悲しげな声で機嫌をとるように、御当主の声が問う。
全身が耳になったような気がする。
衣擦れの音がしたから、きっと風呂で会ったような涼しげな目元の、見目良い男の形になったのだろう。
「ねえ。青ちゃん・・・そこにいるの?」
「うん、居るよ。」
これまで隠された真実が、俺に向けて、ほんの少しほころんだ対面だった。
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ぼくは青ちゃんの背後にぴったりと張り付いて、海鎚家当主と距離を置き、思い切り苦笑いされた。
青ちゃんの肩越しに、距離をとってご当主が低い声で話しかけてくる。
「・・・言っておくが、我は、人など食わぬぞ。」
「嘘だっ、真夜中にぼくを食おうとしたじゃないか。口の所、なめたっ!」
「・・・あれは、口を吸おうとしただけだろう・・・そなたは、物を知らぬ、まるで羽二重で包まれた無垢な赤子のようだな。」
心底、困ったような、悲しげな海鎚家当主の言葉だった。
まるで、ぼくの方が悪いことをしたみたいじゃないか
海鎚緋色は青ちゃんに声をかけた。
「スサノオ。これは到底、クシナダと一つ魂を別った者とは思えぬ。」
やっぱり、クシナダと言うのはもう1つのぼくの名前みたいだった。
青ちゃんはいつもの様子と、違っていた。
ぺたりと平伏し、言葉を選び返事をした。
「申し訳ございません。」
「この幼さゆえに、まだ時期尚早と思い、両親も伝えられぬまま今日を迎えてしまったのです。」
幼さ・・・?なんだよ、それぼくのことっ?しかも何で、謝るんだよっ!
赤子だの、なんだの。
食われそうになったのは、こっちだぞ。
う~っ、ちょっと、その古臭い態度がむかつく。
「アシナヅチとテナヅチも、そこを一番心配されておいででした。」
「いっそ、神楽の依り代(ヨリシロ)としてあげてしまえば、全てを理解できるのではないかと思い、無垢のまま連れて参ったのです。神器の鏡もこちらにありましたし。」
ちらと、御当主が青ちゃんの背後のぼくに、一瞥をくれた。
「さすれば、これは容器だけと言うことだな。狼藉者のスサノオが、現世ではずいぶん殊勝な物言いをする。」
「スサノオ、今度こそ、そなたの真実を尽くし、我の積年の思い遂げさせてみよ。」
「はい。古の約定どおり。」
BLどころか、かけらも無いじゃないかと首をかしげている皆さま。
夜の部は大丈夫です。←あ、ハードルがあがった・・・すみません、あっちもこっちもまだまだの展開です。
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