ずっと君を待っていた・18
「ねぇ、おねえさん。」
ぼくに着物を着せてくれた見知った顔を見つけて、滞在中貰った自室に引っ張り込んだ。
「ね。こっち来て、ちょっと教えてよ。」
「おねえさんは、ぼくのことどこまで知ってるの?」
一瞬、視線を迷わせたところを見ると、何と言うべきか言葉に躊躇したのだろう。
何かを知っていると直感した。
「緋色様の、お・・・お大切な方とお聞きいたしております。」
「ふ~・・・ん。でも、海鎚の家の人は、ぼくのこと余り気に染まないんでしょ?」
我ながら意地悪だと思う。
「だって、ぼくを風呂に放り込むとき、お姉さん達、みんな乱暴だったもん。」
覗き込むと、困ったように目が泳いでいた。
「そ、そのようなことは・・・ただ、お聞きしておりましたクシナダヒメさまと、余りにご様子が違いましたので、多少驚いたのは確かです・・・」
「おねえさんたち。ぼくがちびのころから、いつも遠くからじっと眺めていたでしょ?」
「・・・・」
返事がないと言うことは、当たらずとも遠からじと言うことだ。
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「ちびのぼくを、みんなで怖がらせて喜んでいたんだ、・・・悪趣味だねぇ。」
「あの。それは、お元気でお過ごしかどうか、ご様子を伺いに参っただけでございますよ。」
ほら、やっぱりそうだったんだ。
意外な種明かしに、少しばかり驚いた。
気を良くして、もう少し話を振ってみた。
「姿は見えないけど、クシナダヒメっているんだよね?この屋敷の中に。」
おねえさんは、それには応えずその場に突っ伏して「お許しくださいませ。」と平身低頭だった。
「いやだなぁ・・・ぼく、先に一目会いたいと思っただけだよ。だって・・・」
「ぼく、「そのため」に呼ばれたんでしょ?」
カマをかけてみた。
「それにね、「関係」あるんだもの。会いたいと思っても不思議じゃないでしょ?」
「ご存知だったんですか?」
思いがけず、返答のその声は明るい。
何が何だか分からないけど、とりあえずぼくは知ったかぶりをして、深く頷いた。
「ああ。左様でございましたか。では、神楽の席であなたさまがクシナダヒメ様と魂を交代なさるのも、御承諾なさったのですね。」
「ご決断されるかどうか、みなで気を揉みました。ああ、良かった。」
魂の交代・・・?ざっと血の気が引くのが自分で分かった。
そうか・・・そういうことか。
「やれ、嬉しや。」
「緋色様の、積年の思いが成就する、めでたき日が今度こそ来ようとは。」
喜色満面の華やいだ笑顔が、ぼくの人生の終わりを告げていた。
どくんと、痛むほど高く、心臓の鼓動が響いた。
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