ずっと君を待っていた・19
お姉さんは、嬉々として俄然、口が軽くなった。
「とうとう、クシナダヒメさまの血流、稲田家とヤマタノオロチの血流、海鎚家の御婚姻が叶うのですね。」
「まことに、おめでとうございます。」
「あ・・・、はい。」
もう、いいよ。
解ってしまった。
親父が頭を下げた、人身御供と言う意味。
ぼくがぼくでなくなるという、本当の意味。
孤立無援、と言う言葉くらいいくら物を知らないぼくでも知っている。
もう1つ、こんなときに使うのは、四面楚歌だっけ・・・?
妙に冷静になっている気がする。
・・・違う。
今のこの気持ちはたった一人何も知らなかった、単なる「疎外感」だ。
昨日みたいに、ぼくの身体を誰かに(クシナダヒメだか姉ちゃんだか)明け渡すために「神楽」が奉納されるってことなんだろ?
親父とお袋を前に、ぼくはずるずるの着物のまま、仁王立ちしていた。
「ぼくは、この世から綺麗さっぱり、いなくなっちゃうってことなんだね。」
「クシ、すまん。」
もうこれ以上、隠し切れなくなったと悟って、親父は饒舌に語った。
「こうなったら、知っている限り、何でも答えるから聞いてくれ。」
居直ったような父親と、黙って涙ぐむ母親と何だか、いつもと様子が違っていた。
二重にぼんやりと、白髪頭の老夫婦が見えるような気がする。
「姉さんか、妹か知らないけど、ぼくがちびのときに亡くなった人とぼくの魂が入れ替わるんだろ?どこにいるの?」
「もう、分かってしまったんだから、会えるのなら逢わせて。話をするくらいいいでしょ?」
断られるかと思ったけれど、おふくろがすっと立っていらっしゃいと言って、部屋を出た。
案外女の人のほうが、いざとなったら肝が据わっているのかもしれない。
古い屋敷の中を迷う事無くお袋は歩き、やがてクシナダヒメの絵をかけてある部屋に入った。
この家で、ぼくが最初に通された部屋だった。
「座って。」
焚き染められた香の匂いが、鼻をくすぐる。
この匂いを嗅ぐと、何だか気持ちがふわふわと浮遊しそうになる。
おふくろは、神楽の衣装の入った桐箱の中から古い鏡を取り出すと、絵のそばに立てかけた。
「覗いて、クシ。」
鏡に、写るのは当然ぼくのはず・・・
指を伸ばして鏡に触れれば写った俺も手を伸ばす。
指先が鏡面にふれると、とろりと鏡の表面に指先が溶けた。
「わ・・・」
誰かが指先を捕らえて、握った。
「懐かしい、ひぃくん・・・会いたかった。」
鏡の中のぼくが、ひらひらと手招きをして、ぼくを呼ぶ。
「何も知らなかったのに、一人でここまで来たのね。いらっしゃい。あなたの知りたいこと、全部見せてあげる。」
鏡の中のぼくの背後の景色が、田園風景なのに驚いて、ぼくは思わずお袋の腕を掴もうとしたけれど、その手は空をかいた。
「大丈夫。ここは過去を映しているだけだから、見ていらっしゃい、クシ。」
「見ていらっしゃいって、帰れるの?ちょっと待ってよ、まだ心の準備が・・・・わ~~~!」
助けて・・・ドラえも~ん!!(青ちゃ~ん)
********************************************
いつもお読みいただきありがとうございます。
拍手もポチも、励みになっています。
明日も、がんばります。 此花
本日より、時代小説バナーは外すことにしました。
BLだけの参加になります。どうぞよろしくお願いします。
「とうとう、クシナダヒメさまの血流、稲田家とヤマタノオロチの血流、海鎚家の御婚姻が叶うのですね。」
「まことに、おめでとうございます。」
「あ・・・、はい。」
もう、いいよ。
解ってしまった。
親父が頭を下げた、人身御供と言う意味。
ぼくがぼくでなくなるという、本当の意味。
孤立無援、と言う言葉くらいいくら物を知らないぼくでも知っている。
もう1つ、こんなときに使うのは、四面楚歌だっけ・・・?
妙に冷静になっている気がする。
・・・違う。
今のこの気持ちはたった一人何も知らなかった、単なる「疎外感」だ。
昨日みたいに、ぼくの身体を誰かに(クシナダヒメだか姉ちゃんだか)明け渡すために「神楽」が奉納されるってことなんだろ?
親父とお袋を前に、ぼくはずるずるの着物のまま、仁王立ちしていた。
「ぼくは、この世から綺麗さっぱり、いなくなっちゃうってことなんだね。」
「クシ、すまん。」
もうこれ以上、隠し切れなくなったと悟って、親父は饒舌に語った。
「こうなったら、知っている限り、何でも答えるから聞いてくれ。」
居直ったような父親と、黙って涙ぐむ母親と何だか、いつもと様子が違っていた。
二重にぼんやりと、白髪頭の老夫婦が見えるような気がする。
「姉さんか、妹か知らないけど、ぼくがちびのときに亡くなった人とぼくの魂が入れ替わるんだろ?どこにいるの?」
「もう、分かってしまったんだから、会えるのなら逢わせて。話をするくらいいいでしょ?」
断られるかと思ったけれど、おふくろがすっと立っていらっしゃいと言って、部屋を出た。
案外女の人のほうが、いざとなったら肝が据わっているのかもしれない。
古い屋敷の中を迷う事無くお袋は歩き、やがてクシナダヒメの絵をかけてある部屋に入った。
この家で、ぼくが最初に通された部屋だった。
「座って。」
焚き染められた香の匂いが、鼻をくすぐる。
この匂いを嗅ぐと、何だか気持ちがふわふわと浮遊しそうになる。
おふくろは、神楽の衣装の入った桐箱の中から古い鏡を取り出すと、絵のそばに立てかけた。
「覗いて、クシ。」
鏡に、写るのは当然ぼくのはず・・・
指を伸ばして鏡に触れれば写った俺も手を伸ばす。
指先が鏡面にふれると、とろりと鏡の表面に指先が溶けた。
「わ・・・」
誰かが指先を捕らえて、握った。
「懐かしい、ひぃくん・・・会いたかった。」
鏡の中のぼくが、ひらひらと手招きをして、ぼくを呼ぶ。
「何も知らなかったのに、一人でここまで来たのね。いらっしゃい。あなたの知りたいこと、全部見せてあげる。」
鏡の中のぼくの背後の景色が、田園風景なのに驚いて、ぼくは思わずお袋の腕を掴もうとしたけれど、その手は空をかいた。
「大丈夫。ここは過去を映しているだけだから、見ていらっしゃい、クシ。」
「見ていらっしゃいって、帰れるの?ちょっと待ってよ、まだ心の準備が・・・・わ~~~!」
助けて・・・ドラえも~ん!!(青ちゃ~ん)
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