ずっと君を待っていた・24
オロチの白い顔に朱が走った頃、テナヅチはスサノオとの打ち合わせ通り告げた。
「オロチさまは、仮の姿をお解きにはなりませぬのか?」
酒に酔った大蛇の目が、どろりと潤む。
「何故、そのようなことを?」
「お名前の「お」は峰、「ち」は霊力を現すものと、存じております。わたくしどもも、神々の末席に位置するものですから。」
「そうであった・・・か・・・ぐっ!」
密かに毒の盛られた食事を食し、オロチの持った箸が、ぽろと落ちた。
「オロチッ!?」
クシナダヒメが悲鳴を上げて走りよった。
ゆらと陽炎を揺らめかし、オロチが立ち上がる。
愛する娘の家族から受けた、仕打ちに今は半信半疑だった。
「アシナヅチ・・・テナヅチ・・・?これが、此度の求婚の返事か?我をこのような形で・・・」
一言発すると、その場によろめいて膝をつく。
蒼白になったクシナダヒメが、かばうように、龍神の末裔の貴公子を掻き抱いた。
オロチの様子に言葉を失いながら涙にくれた。
「どういうこと・・?・・・この人に何をしたの?父様、母様?」
オロチは苦しげに、その場にぷっと泡の混じった血を吐いた。
「そ、そなたの両親に、毒を盛ら・・・れた。」
「あぁ、オロチ・・・しっかりして。」
「父様、母様、わたくしの大切な人に何と酷い事を・・・」
胸を押さえてよろめいたオロチは、庭先にどっと倒れこんだ。
毒に苦しむその姿は、人型のまま次第に巨大なものとなってゆく。
アシナヅチ、テナヅチはその場で腰を抜かさんばかりになっていた。
「わ・・・我の、クシナダ・・・」
その声は既に弱々しく細くなり、伸ばした指は震えていた。
「クシナダヒメ、離れよ!こやつを退治するっ!」
「スサノオさまっ!?何をなさいます。」
「こやつは、人を食らう化け物ぞ!」
響くスサノオの声に呼応するかのように、ついにオロチは人型を捨てた。
天地を揺るがす轟音と共に、山が揺らぐほどの迫力で、クシナダヒメの愛しい男は、愛する姫に見せたことの無かった本性を晒した。
毒に苦しむ大蛇は、8つの頭と8本の尾を持つ正当な龍族の眷属だったが、クシナダヒメの父母はすっかりスサノオの言を信じ込んでいた。
巨大な大蛇の目は毒のせいで、熟れた鬼灯(ほおづき)のようにただれて真っ赤になっていた。
のたうつ大波のような背中には、苔や木が生え、大地でこすれた腹には赤黒い血がにじみ、8つの谷、8つの峰にまたがるほどの大きさで太陽すら見えなくなった。
「オロチ!オロチ!」
霞んだ目に、愛しい人の姿は小さすぎて、もう映っていなかった。
どこか遠くで、愛おしい声だけが・・・聞こえるような気がした。
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いつもお読みいただきありがとうございます。
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明日も、がんばります。 此花
「オロチさまは、仮の姿をお解きにはなりませぬのか?」
酒に酔った大蛇の目が、どろりと潤む。
「何故、そのようなことを?」
「お名前の「お」は峰、「ち」は霊力を現すものと、存じております。わたくしどもも、神々の末席に位置するものですから。」
「そうであった・・・か・・・ぐっ!」
密かに毒の盛られた食事を食し、オロチの持った箸が、ぽろと落ちた。
「オロチッ!?」
クシナダヒメが悲鳴を上げて走りよった。
ゆらと陽炎を揺らめかし、オロチが立ち上がる。
愛する娘の家族から受けた、仕打ちに今は半信半疑だった。
「アシナヅチ・・・テナヅチ・・・?これが、此度の求婚の返事か?我をこのような形で・・・」
一言発すると、その場によろめいて膝をつく。
蒼白になったクシナダヒメが、かばうように、龍神の末裔の貴公子を掻き抱いた。
オロチの様子に言葉を失いながら涙にくれた。
「どういうこと・・?・・・この人に何をしたの?父様、母様?」
オロチは苦しげに、その場にぷっと泡の混じった血を吐いた。
「そ、そなたの両親に、毒を盛ら・・・れた。」
「あぁ、オロチ・・・しっかりして。」
「父様、母様、わたくしの大切な人に何と酷い事を・・・」
胸を押さえてよろめいたオロチは、庭先にどっと倒れこんだ。
毒に苦しむその姿は、人型のまま次第に巨大なものとなってゆく。
アシナヅチ、テナヅチはその場で腰を抜かさんばかりになっていた。
「わ・・・我の、クシナダ・・・」
その声は既に弱々しく細くなり、伸ばした指は震えていた。
「クシナダヒメ、離れよ!こやつを退治するっ!」
「スサノオさまっ!?何をなさいます。」
「こやつは、人を食らう化け物ぞ!」
響くスサノオの声に呼応するかのように、ついにオロチは人型を捨てた。
天地を揺るがす轟音と共に、山が揺らぐほどの迫力で、クシナダヒメの愛しい男は、愛する姫に見せたことの無かった本性を晒した。
毒に苦しむ大蛇は、8つの頭と8本の尾を持つ正当な龍族の眷属だったが、クシナダヒメの父母はすっかりスサノオの言を信じ込んでいた。
巨大な大蛇の目は毒のせいで、熟れた鬼灯(ほおづき)のようにただれて真っ赤になっていた。
のたうつ大波のような背中には、苔や木が生え、大地でこすれた腹には赤黒い血がにじみ、8つの谷、8つの峰にまたがるほどの大きさで太陽すら見えなくなった。
「オロチ!オロチ!」
霞んだ目に、愛しい人の姿は小さすぎて、もう映っていなかった。
どこか遠くで、愛おしい声だけが・・・聞こえるような気がした。
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