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ずっと君を待っていた・34 

うっかり、クシナダヒメとオロチの馴れ初めは?なんて馬鹿な質問にも、笑いながら答えてくれた。

昔から、蛇は、米を食う鼠を食べてくれるので、水の神だけでなく稲の神でもあるのだそうだ。
ふ~ん・・・一つ、お利口になったよ。
討ち果たされて、今や出雲の地で八つの山になってしまったオロチは、きっとクシナダヒメが鼠が米を食べて困るなんていおうものならきっと、鼠退治に相当気合を入れて張り切ったに違いない。
神器を、ぶんぶん振り回したりして。
何か想像がついて、微笑ましい。

「仲良かったんだね。」

「ええ、とても。」

なんのてらいもなくおねえさんは答え、俺はずっと怖がっていた「長いもの」に対する見方が変わった気がする。

「おねえさんたちは、これからもずっと、緋色・・・御当主と一緒にいるの?」

「それをお望みなら、ずっと。」

この先、緋色が一人じゃないんだと思って、ちょっと嬉しくなった。
普通の暮らしに戻ってしまう俺は、一緒には居られないから。

クシナダヒメの姿絵の入っていた中に、うんと昔にクシナダヒメの記憶を持っていた人が書いた手紙(?)があるのを見せてもらった。
オロチ・・・ご当主の宝物なんだそうだ。

「なんて、書いてあるの?」

覗き込んでみたかな文字は崩してあって、ぼくにはとても読めなかった。

「・・・なんぢに 触るる・・」


やさしきままに
静かなるままに
”われ”を生身のものにする

目を開くはかしこき
成果を計るように
なんぢが見たる
うろたえて
目をさす
なんぢが消ゆる

喘ぎが呻きになり
すすり泣きに変はる
なんぢにすがりつく”われ”は
きつく目をさしたる
今の自分をゆかしからねば
何かをなくせみ・・・

「どうした?」

「あのさ、古文・・・?ぼく、文系苦手だもん。わかんないよ。」

本当は、勉強全般苦手だけど。
ご当主は、ぼくにわかりやすいように、それから現代文に直してもう一度読んでくれた。
低い優しい声が、どれほどこれを書いた人を思っていたかよく分かる。

「・・・これを書いた娘は、労咳で・・・今は、結核と呼ぶのだが、我と情を交わすことなくやせ衰えて儚くなってしまったんだ。」

「その頃、我は従軍していて、娘を看取るものは無く療養所で亡くなった後、遺品の中にあったのを見つけた。」

「つらかったね・・・」

あなたに 触れる
あなたに 寄り添う
やがて からみつく

低いささやき
気配と におい
かすれがちの声

やさしいままで
静かなままで
”わたし”を生身のものにする

目を開くのはこわい
成果を計るように
あなたが見ている
うろたえて
目を閉じる
あなたが消える

喘ぎが呻きになり
すすり泣きに変わる
あなたにすがりつく”わたし”は
きつく目を閉じている
今の自分を見たくないから
何かをなくしそうで

言えない言葉を飲み込んで
吐息だけで答えている
でも それさえもいつか
言わされそうで
少しずつ狂わされるように
自分を手放しそうで
その時を待っている自分が嫌いで

つぶやく言葉を声にしそうで
目を閉じる


読み終えたオロチの瞳が、潤んでいた。

いつの時代のクシナダヒメか知らないけれど、直ぐ側にいる愛しい人に腕を伸ばしても届かないせつない思いが、そこにあった。
互いに記憶を持っていたのに、重い病気で側に寄ることすら禁じられた過去の恋人同士だった。

当時、死病と言われた病で亡くなったクシナダヒメの、もどかしくも狂おしい想いは、つきんと胸に痛かった。
きっと、命の灯が燃え尽きる最期まで、クシナダヒメの瞳には、愛しい男の姿が視えていただろう。


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残り2話になりました。
明日も、がんばります。   此花
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こちらの素敵詩は『詩腐徒(しふと)交遊記』かやさまによる「白蛇 ― 目を閉じて」です。
余りに切ない詩で、ちょうど過去に関わりのあったエピソードを追加したいと考えているときに、この詩を見つけました。
そうっとパクリたいですと、どきどきしながら、ささやきに行きましたら「いいですよ~。」おお~!なんと言う太っ腹っ!(≧∇≦)ノ彡ありがたく、お借りいたしました。
まるで求めていた場面に、すっぽりとはまるような感覚でした。

病床の娘が熱に浮かされて求めた、恋する人との夢の中での逢瀬です。

まだ、開設して間がないブログ「詩腐徒(しふと)交遊記」さまですが、素敵詩とご自分で撮られた美しい写真がアップされています。是非、ご覧になってください。
フリーの写真も素敵です。
此花は、短い言葉の中に想いを込めるのは苦手なので、詩を書ける人が羨ましいです。
BL若葉マークの此花の周囲には、溢れる才能がいっぱいです。
無茶なお願いを聞いてくださって、本当にありがとうございました。 此花
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4 Comments

此花咲耶  

NoTitle

るかさま

(//▽//)・・・きゃあ。るかさま。コメントありがとうございます。
かやさまにそうっとつぶやいてみたら、快くお貸しくださいました。
思わず、やった~!

るかさまのところのお話で、踏み込む場面リアルでどきどきでした。
大人が書けるっていいですね。人外と子供しかかけないのでレパートリーを増やしたいです。
好きなのに気持ちを封じ込めて、自分をいためるような真似ばかりしている西階くん。三好さんときっと両思いのはずなのに互いの気持ちが切ない枷のようです。
無事で本当によかった。気持ちのやり取りがドラマを視ているようでした。
るかさまのお書きになるいじらしい子が大好きです。きゅんきゅんします♪(*^ー^)ノ・・・すみません。感想コメントここに書いてしまいました。

古文は此花は、クシちゃんレベルのお勉強は残念な人なので、ツールを使っています。なので、猫でもおっけ~です。
ただ詳しい方が読むと、きっとあちこち不備もあると思います。
歴史物はすきなのですが、古文や武士言葉はほぼ適当です。(`・ω・´) ← ここで打ち明けてどうするんだ・・・

コメントありがとうございました。嬉しかったですっ!

2010/11/24 (Wed) 00:04 | REPLY |   

るか  

おお

こ、この詩は!と思ったら、やっぱりかやさんの詩でした!
私、かやさんの詩の中で、一番好きかも~~。
フリ―写真に、フリ―詩ですねぇ。新しい!!
そしてそれを古文に直しちゃう此花さんもスゴイ~。
何度も転生しながら、そのたびにすれ違い、また
別れなきゃいけないのって、切ないです。
お話と、詩の切なさの融合ですね~~・・・

2010/11/23 (Tue) 23:19 | REPLY |   

此花咲耶  

NoTitle

かやさま

(//▽//)・・・きゃあ。こちらこそ、ありがとうございました。
自分で設定作って、労咳だ~、美少女だ~とか言いながら頭抱えていたら、イメージにどんぴしゃのものがそこにありました。
ご無理言いましてごめんなさい。
素敵詩、丸々使わせていただきました。
こちらこそ、駄文まぶしちゃって大丈夫かなぁと心配しておりました。又、機会がありましたらよろしくお願いします。
・゜゜・(/▽\*)・゜゜・←自分で、がんばれよ~
コメントありがとうございました。嬉しかったですっ!

2010/11/23 (Tue) 21:31 | REPLY |   

かや  

ありがとうございます~

こんな素敵なお話に、がっつり使われてしまって~(@@)
だ、大丈夫でしょうか??(汗)
ぶち壊してないといいのですけど・・・。

此花さんのお話は、優しくて切なくて、うっとりします~(≧∇≦)
このたびは、ありがとうございましたm(_ _)m

2010/11/23 (Tue) 20:30 | EDIT | REPLY |   

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