深い森の奥の魔導師
魔導師の卵たちは、大騒ぎしていた。
後、二か月で自分の使い魔を持てなければ、魔導師の資格をはく奪されるというのだ。
「うそ・・・。もし、使い魔が手に入らなければ、どうなるの?」
大魔導師オメガは厳かに告げた。
「ここでの記憶をすべて消去して、人間として生きてゆくことになる。」
既に使い魔を持った者は安堵し、いまだ一人のものは顔色を変えた。
涙目で爪を噛む魔導師の卵は、自分の使い魔を持っていなかった。
仲間はみんな使い魔を持っていて、それは金色の瞳を持った空中に浮く猫だったり、月夜になれば全身が針金のような剛毛に覆われる人オオカミだったりした。
「まだ、使い魔見つからないのか。」
魔導師の友人、キュラの肩に乗るのは、正真正銘の悪魔界の小物だったりする。
長いかぎづめを、小さな肉球の中に隠し一見銀色の狐に見える。
「なぁ・・・きっと、お前の魂が清らかすぎるんだって。」
「俺と体、繋ごうぜ。そうしたら、淫魔のインキュバスが使い魔を寄越してくれる。」
ぷるぷると頭を振ったら、零すのを我慢していた涙が散った。
「やっだ。淫魔、こ、こわ・・・いもん。」
キュラは薄く笑う。
「怖くなんてないさ。きもちいい・・・んだよ。いい加減で使い魔作んなきゃ、お前3つも下の奴らにも苛められてるだろ。人間界に追放されてもいいのか?」
「人間界、やだ。・・・キュラこわいよう・・・、」
落ちこぼれの魔導師は、いつも使い魔のいないことをからかわれていた。
魔導師になれないものは、記憶を抜かれ人間界に捨て子として送られる。
それは最大の屈辱だった。
「キュラは、どうやってエリンと出会ったの?」
くす…と、キュラはいたずらっぽく笑う。
「初めて淫魔と体をつないだ後に、血をなめに来たんだよ。こいつ。インキュバスの手下なんだ。だから、お前にもきっと使い魔になりたいってやつが、きっと来る。」
「お前、かわいいもん。」
そのまま肩を抱かれ、初めて体をつなぐものが身体を浄める群青の沼にやってきた。
まともな使い魔を捕まえられない以上、もう最下級の淫魔に頼るしかない。
深い森の奥から、誰かが呼ぶ声がする。
決してその声に応えてはならない。
「あれは、火喰い竜の鳴き声かな・・・?」
「怖いの?」
「こっ・・怖くないっ!」
顔色をなくしながらも、二人は森の奥へ入ってきた。
不意に森の奥に火柱が上がり、身の毛もよだつような悲鳴があたりをつんざいた。
「キュエーーーーッ!!」
「あっ、エリン!」
キュラの使い魔、淫魔の手下は恐ろしい声に怯え、主を捨てて逃げ出してしまった。
「キュラー!」
「悪い、俺エリンを探してから、学校に戻るから。お前、使い魔になりそうな奴が、潜んでいそうな木のうろ探ってから帰って来い。」
「キュラ~・・・ひっひとりにしないでよ。」
深い森の入り口に、一人置いてけぼりにされた魔導師の卵は、体中を耳にしてあたりを探った。
「キュエーーーーッ!!キュエーーーーッ!!」
恐ろしい声が響き、火柱が轟轟と音を立てて天へとそびえる。
魔導師の卵は、小心者だったが臆病者ではなかった。
そっと、森の奥へと歩を進め、ついに声の主を見つけた。
「キュエーーーーッ!!キュエーーーーッ!!」
「あっ!」
そこにいたのは、火柱をふきながら苦しむ小型の火喰い竜だった。
茨の蔓が、まるで枷のように巻きつき、二本の前足に食い込んでいる。
そばで見守る、大型竜は親なのだろうか。
小さな火喰い竜を励ますように声をかけるたび、火炎が吹き上がっていた。
魔導師の卵を認めると、鋭い牙で威嚇してきた。
「お、お願いだから、落ち着いて。ね、茨をはずしてあげるだけだから。」
両手を広げ、精いっぱいの穏やかな顔と笑顔で、小さな火喰い竜のそばに膝をついた。
二頭の竜がシュウシュウと蒸気を上げて威嚇する中、魔導師の卵はそっと竜の前足を手に取った。
「あ・・・。食い込んでしまったんだね。ちょっとだけ我慢して・・・」
食い込んだ茨のとげを、一本ずつ抜いてゆくうち、ぱたぱたと血の滴がしたたった。
頭に巻いた長い魔導師のしるしの布を小さな火喰い竜の傷に巻くと、息をついた。
「これでいいよ。きっとすぐ直るから。薬を塗ってあげるから、明日もここに来るんだよ。」
先ほどまでの、使い魔の話もどこかに行ってしまって、今はただこの竜を助けられたことに安堵していた。
静かな笑みが、小さな火喰い竜に向けられた。
大型の竜は、天空を半分覆うほどの翼を広げ、ばさりと空に舞い上がり名残惜しそうに去って行った。
魔導師の卵には、この行いが血の契約となったことに気が付いていなかった。
「早く、帰ってくればいいね。お父さんかな・・・・?」
置いて行かれた火喰い竜が、高い声でキューと啼いた。
キュラが帰りの遅い魔導師の卵を探しに来たとき、小さな火喰い竜は人型の青年竜となり、仲よく眠っていた。
最高の使い魔、竜族の青年を傍らに侍らせて、魔導師の卵が大魔導師となり人々から尊敬と憧憬を集めるのは近い将来。
人々は、歓声を上げて魔導師の名を叫ぶ。
「トモ!」
・・・・と。
最近、仲良くさせていただいているBOX95の佐久トモさまが、10000HIT達成しました。
お祝いを差し上げたいのですが、何もないので
実は初めてのファンタジーなので、おっかなびっくりです。
エチに関してはうっすらもないのですが、笑って受け取ってくださったらうれしいです。
(*⌒∇⌒*)♪・・・おこらないでね。←でも、此花ドM~
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