2ntブログ

深い森の奥の魔導師・13 

半分眠りに堕ちながら、キュラを思う魔導師の卵を、青い竜がそっと抱き寄せた。

*************************

「キュエー・・・」

「ん。ジェード・・・」

竜の先の割れた長い舌が、トモの顎をくすぐった。
ジェードはトモの肌に触れ、心に触れた。
浅い眠りに落ちる瞬間トモの唇がキュラ・・と、呼んだ。

習わずとも、優秀な竜は生まれながらにして、人の心を読む。
大魔導師になることよりも、トモが一番に考えているキュラという魔導師の卵の存在に、ジェードは苛立っていた。
厳しい修行に耐え、魔界に通じる穴に結界をはる重責に押し潰されそうになりながら、トモは誰にもキュラのことを口にしない。
結界を張りながら青い稲妻が走る先を、じっと見つめるトモの横顔をジェードは見つめていた。
その視線の先に、暗い魔界の奥に囚われたキュラの姿を見ていた。

魔導師の卵、トモの年齢は15月齢。
本来なら、これから長い間修行をして、ゆっくりと赤い魔法を身につけてゆくはずだった。
大魔導師オメガとエルのように、300歳まで生きてもどれだけの魔法を覚えられるか、誰にもわからない。
古代竜カーディナルのように、ずっと長く魔導師といて魔法を身につけた使い魔が、世界には何体も居て選ばれた魔導師達の力になった。

「急がねばなるまい。」

全てを若い魔導師たちに背負わせるのは無謀だったが、残された時間はわずかだった。
大魔導師も、長い平和に慣れすぎ油断していたのかもしれなかった。
若い見習い魔導師が呼ばれ、青魔法、赤魔法、白魔法の各大魔導師の元に、編成された。
蝙蝠や猫、使い魔の低級なものは、一つの魔法を分け合って覚えた。

*********************************

しばらく後、構内が慌ただしくなった。

魔導師たちが、東の塔に詰めかけてゆく。

悲痛な面持ちで、大魔導師オメガが、消えてゆこうとする大魔導師エルの手を取り、傍らに寄り添った。
エルの指先は薄く透明になりかけていて、残された時間の少なさを表している。
人間ならば死を迎えたのち屍(しかばね)が残り、死を悼むことができる。
だが魔導師の身体は、寿命を迎えると共にさらさらとした一握りの細かな白い砂となり、生きてきた証しは残らない。
記憶を持つ周囲の者と、使い魔の記憶が失われるとき、大魔導師は完璧に生きてきた軌跡を失う。

皆が祈りをささげる空の月が、とうとう薄い新月のようになり、闇が濃くなった。
その時が来た・・・。

「大魔導師エル!」

使い魔に掛けられた声に呼応するように、かすかにエルは呻くと印を結び、空中から禁じられた封印の魔法を取り出して最愛のカーディナルに手渡した。

「こ・・・れ、を・・ト、モ・・・に・・・」

魔導師の世界に住むものすべてが、悲しみにくれ涙した。
一度目の死が、とうとう大魔導師を連れ去ろうとしている。
エルを知る者が、全てこの世から消えるのが二度目の死なら、完璧な死ではなかったかもしれないが、白い匂い薔薇のように優美な姿に、この世界でもう二度と逢うことはできない。

大魔導師オメガも、悲しみにくれながら、ただ見守るしかできなかった。
支える優美な一角獣に励まされながら、震える指先で苦しむことの無いよう、癒しの呪文を懸命に唱えた。

最期の望み通り、事切れる瞬間、大魔導師のエルは長年連れ添った古代竜カーディナルの瞳の中に居た。
300年の人生のうち、卵のころからの殆どを共に暮らし、誰もが羨むお互いが素らしい半身だった。

身体がさら…と、白い砂になる瞬間、大魔導師エルは最期の力で魔法呪文をかけカーディナルの額に輝く宝玉にありったけの護符を注いだ。

≪Meus ancient extraho , rutilus jewel≫
わたしのエンシェントドラゴン・レッドカーディナル

≪Acsi vita runs sicco , diligo persevere forever≫
命はつきても永遠に愛は続く・・・

命尽きる瞬間に、連れ添った使い魔に流れ込んだ大魔導師エルの、深い愛。

魔導師の世界につんざく咆哮が響き、愛するものを失った悲しみの雷竜が、天地の果てで火柱を噴き上げた。

夜空を裂く閃光になって、赤い流星が縦横に駆け拔けた。

稲妻が星々に当たり、細かな火花が降り注ぐ・・・

・・・星が墜ちた。


*******************************

とうとう大魔導師オメガが、儚くなってしまいました。
魔導師としての役目を果たしながら、最後に口にしたのは愛する古代竜を護る呪文でした。

拍手もポチもありがとうございます。
ランキングに参加していますので、よろしくお願いします。

BL小説といいながら、あっちにもこっちにも何もない・・・|ω・`)健全過ぎて、涙が出そう・・・
仕方ない。キュラが魔界でひどい目にあってるところでも書いてごまかしちゃう・・・あわあわ。

卵の頃、カーディナルと出会った、まだ幼い大魔導師オメガです。

にほんブログ村 小説ブログ BL小説へ
にほんブログ村






関連記事

7 Comments

此花咲耶  

nichikaさま

感想ありがとうございまっす!(*⌒▽⌒*)♪
実は初めて書いた、ファンタジーなのです。
新しい挑戦でしたけど、楽しかったです。いつか、また成長した魔導師の違うお話を書きたいなと思います。

2013/01/30 (Wed) 19:42 | REPLY |   

此花咲耶  

サフランさま

サフランさま
> 最後に見たかったチューチュー トレイン~←違うって!!!

最期にさせたかったチューチュー トレイン~←もっと、違う~~~!!

> 遂に逝く 道とはかねて 聞きしかど 昨日今日とは 思はざりしを
> (在原業平の辞世)

うわ~、心情に合いますね 、博識です、サフランままん。

うわ~ん、エルが…(泣)。
> カーディナルはどうなるんでしょう!?
> オメガは!?トモは!?そして、キュラは!?
>
> くっ~、いいところで「続く」か~。
> ジタバタ!!

大団円目指して頑張ります!!(`・ω・´)
コメントありがとうございました。頑張ります。(*⌒∇⌒*)♪

2011/01/27 (Thu) 21:04 | REPLY |   

此花咲耶  

けいったんさま

けいったんさま

> ☝ と、言ったか どうかは 不明ですが・・・
> 此花さまも ねむりこひめ様も メシは 作ってちょうだいな♪
>
此花、ちゃんと炊き込みご飯作りました~(*⌒∇⌒*)♪

> とうとう大魔導師エルの命が 昇華されました。
> 使い魔カーディナルと エルとの 深い 愛に 胸が打たれます。
> 愛する者を 失った カーディナルの悲哀に 涙。。。
>
悲しいけれど、いつかは行く道です。
エルはとうとう星さまに・・・(ノд-。)これからどうすればいい?←聞くな~!

> 偉大なる大魔導師の喪失で 結界が !
> ャバイョ━━━<(ll゚◇゚ll)>━━━!!byebye☆

この顔文字に、思わず噴いてしまいました。(*⌒∇⌒*)♪
とうとう、魔界へ通じる道の結界が破れる日が・・・

コメントありがとうございました。うれしかったです。(〃^∇^)o彡☆

2011/01/27 (Thu) 20:41 | REPLY |   

サフラン  

Re:

最後に見たかったチューチュー トレイン~←違うって!!!

遂に逝く 道とはかねて 聞きしかど 昨日今日とは 思はざりしを

(在原業平の辞世)
うわ~ん、エルが…(泣)。
カーディナルはどうなるんでしょう!?
オメガは!?トモは!?そして、キュラは!?

くっ~、いいところで「続く」か~。
ジタバタ!!

2011/01/27 (Thu) 20:24 | EDIT | REPLY |   

けいったん  

かあちゃん、腹減ったぁーー!by 子供たち

☝ と、言ったか どうかは 不明ですが・・・
此花さまも ねむりこひめ様も メシは 作ってちょうだいな♪

とうとう大魔導師エルの命が 昇華されました。
使い魔カーディナルと エルとの 深い 愛に 胸が打たれます。
愛する者を 失った カーディナルの悲哀に 涙。。。

偉大なる大魔導師の喪失で 結界が !
ャバイョ━━━<(ll゚◇゚ll)>━━━!!byebye☆

2011/01/27 (Thu) 17:01 | REPLY |   

此花咲耶  

ねむりこひめさま

ねむりこひめさま

> うっきゅ~~~~~TT
> エル様が白い砂になってしまわれました~~~~。
> すん、すん。エル様~~~~。
> 悲しいです~~~。

゚・。(。/□\。)。わ~ん、感激です~。泣いてくださってありがとうございます。エルも喜びます。
>
> トモ、エル様の期待に添える、立派な魔導師になってね。
> 今日は悲しいので、夕飯は手抜きをしてやるっ!←いつも

(´・ω・`) ひめさま、それはなりませぬ。
じゃあ、此花も悲しいので、お手抜きを・・・

コメントありがとうございました。嬉しかったです。(*⌒▽⌒*)♪

2011/01/27 (Thu) 10:46 | REPLY |   

ねむりこひめ  

NoTitle

うっきゅ~~~~~TT
エル様が白い砂になってしまわれました~~~~。
すん、すん。エル様~~~~。
悲しいです~~~。

トモ、エル様の期待に添える、立派な魔導師になってね。
今日は悲しいので、夕飯は手抜きをしてやるっ!←いつも

2011/01/27 (Thu) 09:35 | EDIT | REPLY |   

Leave a comment