深い森の奥の魔導師・10
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「いや・・・キュラ、キュラっ、!放して!」
『トモーーーーっ!早く逃げろ!俺が少しでも抑えている間に!早く!』
「キュラ!ふざけた手出しは認めんぞ。俺は純潔のミルクを飲むんだ。うっとおしいやつめ、引っ込んでいろ!ぐわっ・・・」
キュラが自分の手を自分の首に回した。
ぎりぎりと満身の力を込めてキュラが、叫んだ。
『逃げろーーー、トモ!』
弾けるように扉に向かったトモを、どんと使い魔のエリンが体当たりし捕まえた。
「どこへ行くんだ。寝台はこっちだろ、トモ。」
「いやだ!放せっ!キュラーーっ!」
抗うトモを獣の力で押さえつけ、銀狐が裂けた口で高笑いをした。
「インキュバスさまの手管に堕ちない者などいるものか。」
トモの脳内に、知らない呪文が浮かんだ。
≪Render・・・ safe immateriality because whole hurtful(すべての災いから私を守れ)!≫
稲妻に打たれたように銀色狐は空中で一回転すると、部屋の片隅に叩きつけられた。
「ジェード!」
火蜥蜴が冷たい炎を体にまとい、窓外に浮遊していた。
≪Remain dextrality at this time(ただちに去れ)≫
「覚えていろよ、青蜥蜴め。そのうち尻尾をつかんで振り回してくれる。」
捨て台詞を残して銀狐は去った。
寝台の上には、自分で自分を抹殺しようとしたキュラが半分気を失ったようにして倒れ込んでいた。
「キュラ!ああ、キュラ!大丈夫?」
「ト・・・モ・・・」
伸ばしかけた指をぐっと握りこんで、キュラは窓から外へと跳んだ。
「その無垢な甘い身体、今は預けておく。いつか、必ずこのインキュバスが食してやるぞ。」
金色の目映い髪を空に浮かべ、高く笑ってトモの大好きな友人は魔導師の世界から消えた。
「キュラ!行かないで、キュラーーーッ!返せ、キュラーーーッ!」
トモの悲鳴に一瞬、とび色に変わった瞳が悲しげに笑った気がする。
キュラはトモの手の届かない、遠い場所に去ってしまった。
「うわあぁーーーんっ…キュラーーーーっ!キュラーー・・・」
誰よりも綺麗で優秀だった魔導師の卵。
使い魔を選ぶのに失敗したキュラは、堕落の淫魔の手に囚われてしまった。
永遠の罰を受けても誘惑されたいと思うほど悩ましい姿を手に入れた少年は、つかの間トモの前から姿を消した。
淫魔の消えた闇に向かって、トモは無力な自分を抱えて泣いた。
拭っても拭っても、涙が溢れて止まらなかった。
傍にいる青い竜がそっと優しく、頬を伝う涙をぺろと舐めとった。
「泣いている暇などない。時間がないぞ。」
すべてを見通した大魔導師オメガが、涙にくれるトモの肩を抱いた。
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キュラは本当は、トモを手に入れたかっただけなのに、使い魔の選び方を間違ったみたいです。
キュラの心の中の葛藤が、淫魔との会話になりました。
|ω・`)キュラ:「トモ、ごめんね。」
'゜(*/□\*) '゜トモ:「キュラ~~~!」
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