深い森の奥の魔導師・6
それは、見習い魔導師達でさえ、薄々気が付いていた。
魔界と人間界の、ちょうど中間にある魔導師の世界の境界が、脆くおぼろになっていた。
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トモは呼ばれて、大魔導師エルの元を訪ねてきていた。
自分を選んでくれた、この竜がどういう種類の竜なのかそれすら知らないトモだった。
大魔導師エルの前に深くぬかずいて、トモは言葉を待った。
この世の理を守るために、存在する大魔導師達は驚くほど優美な姿を持っている。
大魔導師エル・・・。
飛翔する竜の背に乗って流れる銀糸は陽を吸って黄金色に輝き、トモやキュラ、魔導師の卵や見習い達は天に舞うその姿を羨望のまなざしで見送った。
地に降り立つと瞬時に姿を変え、エルの傍らに立つ人型になったドラゴンは、古代の人界での戦いが伝説となり、ブリテン王家の紋章にさえなっている有名な紅い竜だった。
トモが緊張しながら膝を折ると、トモの使い魔も隣で同じように膝を折った。
大魔導師トモが、ふっと緊張を解く。
「その方は、火蜥蜴(サラマンダー)か？両親は？」
声をかけたのは大魔導師エルのそばに侍る、人型の紅い竜だった。
まだ、人語を話せないトモの使い魔は頭を振ると、トモに判らない古代の言葉を使った。
「そうか。お前は火蜥蜴とファーブニル(竜の種類)との混血なのか。蝙蝠（こうもり）の羽を持つ青い火蜥蜴よ、魔導師にもう名前はもらったのか？」
トモの方をちらりと見やり、使い魔は緩く首を振った。
まだなんですと、悲しげに心でつぶやいたのを聞いたような気がした。
不意に、がたと音を立てて大魔導師エルがくずおれた。
「エルさまっ！いかがなされました。」
蒼白の大魔導師エルは、今や頼りない一人の魔法使いとなって何とか身体を立て直した。
「大・・・丈夫だ。騒ぐでない。」
「少々、長く生き過ぎただけだ。魔導師にも竜にも寿命はあるのだ、トモ。覚えておいで。」
トモは尊敬すべき大魔導師に、寿命があるなどと考えたこともなかった。
「早、３００年だ。わたしがカーディナルと契りを結び、カーディナルは使い魔として私の魔法を支えてくれた。わたしの・・・カーディナル・・・ここへ。」
大魔導師のしなやかな指が空に印を結ぶと、取り出したかのように宝玉が表れた。
「これは、魔法を増幅させる宝珠だ。赤の魔法を使うトモ、おまえもいつか火を持って魔界と戦う日が来るだろう。・・・わたしは、こんなにも老いてしまった・・・。」
知らぬうちに、トモの頬を涙が伝った。
人々から畏怖を持って敬愛される大魔導師エルの最期の時が近づこうとしている。
命のともしびは、誰の目にも細く弱々しくなっていた。
それは、あちこちの隙間から出没する下級悪魔の存在で、皆気が付いていた。
大魔導師たちは、修復に力を注いでいたが、エルの力の大きさには及ばない。
大魔導師エルの使い魔、赤い流星と呼ばれるカーディナルの腕に抱かれて、くたりと頭を預けている魔導師は、とても儚く見えた。
どこまでも優しい包み込むようなカーディナルのまなざしが、トモの胸を騒がせた。
自分は使い魔となった青い竜と、これ程の絆を結ぶことができるだろうか。
青い竜が、そっとトモの腕に手を伸ばしてきた。
手の平の鱗の生えていない柔らかな部分に、茨をくいこませた傷痕が残っていた。
深い森の奥で出会ったとき、青い竜は傷つき傍にいた大型の竜は心配の咆哮を上げていた。
傷口から噴き出る血に、トモは躊躇することなく、唇を寄せ化膿した膿を吸い上げ吐き捨てた。
何度も何度も、唾液で血止めができるまで、トモは懸命に舐めたのだ。
それが契約になるともしれず・・・
何の欲得もなく、ただ治癒呪文を懸命に唱えた。
翡翠（ひすい）色の瞳が、じっとトモを見つめる。
言葉にはならなかったが、口の形が「トモ」と告げた。
「綺麗な翡翠の色だ。ジェード（翡翠）・・・。」
「俺の使い魔、俺の竜の名は・・・ジェード。」
青い竜のたてがみが、歓喜に震え逆巻いた。
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今頃、アップしてごめんなさい。
世界のドラゴン辞典が面白くて、夢中です。
やっと、トモの使い魔となった青い竜の名前が決まりました。
「翡翠色のジェード」です。！(｀・ω・´)かっこよす！
濁音は避けたかったので、「シアン」「アイル」…いっぱい考えたのですが、いまひとつしっくりと来ず。
結局、此花真夜中に魔導師トモの気持ちで、叫んでみて決めました。（*⌒∇⌒*)♪←「ジェード～！」
家人が包み込むように生暖かい目です。・・・(´・ω・｀)
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