深い森の奥の魔導師・25
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真っ直ぐに黙示録のドラゴンめがけて、放たれた矢は標的に食い込むと、たちまち天をも焦がす巨大な火柱を噴き上げた。
辺りは、昼間と見まごうほどの明るさに覆われてゆく。
6本の火柱が意思を持ち、自分たちを滅ぼそうとした若い竜に襲いかかった。
「うわーーーっ!!ジェードーーーーッ!」
「逃げてーーーーっっ!!」
トモの使い魔、火喰い竜のジェードは魔界獣に火をかけた後、自らも彼らの吐く炎に身を焼かれていた。
全身を悪魔の火に包まれ、猛り狂った魔界獣に尾で叩き落され大地を転がった。
ジェードの表皮は、粘液で覆うことができるから、ほかの竜達よりもしばらくは炎に耐えることができた。
一薙ぎで天の星を払うという、強大な尾が背後から苦しむジェードを直撃した。
残された燃える魔獣の頭部に重ねて腹部にも攻撃を受け、もんどりうって倒れたジェードは苦痛に耐えかねてトモの名を呼んだ。
「トーーーーモーーーーゥーーーー・・・」
若い竜の苦悶の声が、地響きとなってトモの胸に迫る。
「わああぁーーーーーんっっ!!」
「ジェーーーードーーーーッ!!」
崖から身を乗り出し、大切な使い魔に届けよと手を差し伸べても、届くはずもなかった。
トモには告げなかったが、最初からすべて魔導師達には計算された戦術だった。
腹に溜めこんだ脂は、内部で引火させてこそ脅威となる。
溜まった脂に、火種をたたき込む必要があった。
古代竜カーディナルが授けた策は、知ってしまえばトモは怖気づいてしまうだろうと予想がついた。
カーディナルはトモに知られぬように、古代の言葉を選び魔導師と会話し、ジェードには竜の言葉を使った。
トモは地面でもがくジェードと黙示録のドラゴンを、呆けたようにじっと見つめていた。
目をぱんとみはったまま、意識を飛ばしたような様子で、静かに頬を濡らしてトモは行方を見詰めていた。
ジェードは何度打ちのめされても、炎で焼かれても、頭をもたげて魔獣の首に喰らい付き放さなかった。
そして、高台のトモは見た・・・。
敵の忌まわしいドラゴンの首にかかる、青い珠を奪ったジェードはその球を長い鉤づめで掴むと、巨大な火柱を黙示録のドラゴンに向かって噴き上げた。
巨大なドラゴンの腹に溜まった獣脂にジェードの吐く炎が引火し、とうとう全身が火だるまになった巨大な黙示録のドラゴンは地獄へと続く結界の内側へと転がり落ちて行った。
全ての魔導師達が魔法呪文を練り合わせ、強大な楔呪文を打つ。
青白い稲光と共に、瘴気と邪気は追い払われ、世界を守る強力な結界は築かれた。
≪bscurum , prosterno ipsum per lux lucis(闇よ、光の下にひれ伏せ)≫
全ての魔導師が集結し、結界を張った。
そして最後に大魔導師オメガが楔の呪文を撃った。
≪Verto per an Imperator nomen of Deus(神の御名に退け)≫
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青い翡翠のジェードは全身に火傷を負い、青息吐息だった。
呼ばれたトモが、弱ったジェードの元にひざまずいた。
「ジェード・・・」
「・・・キュ・・・エ・・・ト・・・モゥ・・・」
「ジェード・・・何で、一人で行ったの?何で、俺を一人にしたの・・・?」
「俺が、足手まといだったから・・・ジェード・・・傷付けてごめん・・・ね。」
首にかきついたトモの涙がぱたぱたと、黒く焼けたジェードの肌に吸われてゆく。
ジェードは傷ついた鼻先をトモに擦り付けた。
「ジェード・・・」
大魔導師オメガが、いたわりの呪文を唱えるのをトモは涙ながらに聞いた。
「炎を纏い 己の身を挺して 愛する者を 守る勇敢な姿に・・・ ただただ 頭をたれ その尊厳さに 平伏すしかない。」
≪Vigoratus is!(癒せ)≫
そして・・・ジェードは腹部に開いた亀裂の中に前脚を差し込むと、青い球を引きずり出した。
ごろりと球が転がると二つに割れ、中から気を失ったままの赤い髪のキュラが投げ出された。
「キュラッ!?」
周囲で見守っていた魔導師達は、ジェードの姿にすすり泣いた。
青い球を守るために、ジェードは魔界獣の噴く炎を避け、腹を裂きキュラを入れて業火から守ったのだ。
何よりもトモが助けたかったキュラは、インキュバスの罠に落ち青い球に封じ込められていたが、球から救い出されるとやがて息を吹き返し、ジェードの姿を見るとその場に突っ伏し涙にくれた。
ジェードの深い傷と血だまりに、すべてを深く理解したキュラだった。
背後からトモの肩に縋ると、キュラは深く首を垂れ後悔に苛まれていた。
「トモ・・・君の使い魔は俺を守ってくれたんだ。俺、ちゃんとわかっていた。君のジェードはずっと君の名前を呼んでた。トモって・・・」
「君のために・・・君が俺を助けてって望んだから、ジェードは・・・こんなひどい火傷を負いながらも、助けてくれたんだ。」
「俺・・・俺なんか・・・そんな資格な・・・い・・・のに。ごめん・・・ごめんね。」
古代竜のカーディナルが、しゅっと人型になりジェードの傍によると何事か告げた。
「トモ、大魔導師エルの残した禁呪がある。正しきものに力を与える最期の魔法をエルはわたしに残した。」
「大魔導師エルが残した魔法・・・?」
カーディナルの手のひらにぽうっと点るエルの残した魔法を、トモは祈るような面持ちで、じっと見つめていた。
今わの際に、大魔導師エルがカーディナルに託した最後の魔法だった。
ふわふわと柔かい光の玉が揺れながらジェードの上で留まると、ぱんと弾けて光の粒子が全身を包む。
息を詰めて見守る中でエルの祈りは細かな粒子となり、踊るように静かに傷を修復してゆく。
やがて最後の光が消える時ジェードは古い肌を脱ぎ捨て、新しい姿を手に入れた。
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。・゚゚ '゜(*/□\*) '゜゚゚・。トモ:「ジェード!いやだ~~~!!」
!(`・ω・´)カーディナル:「泣くなトモ、エルの残した魔法がある。」
(´;ω;`) トモ:「早く、早くして~・・・。」
※携帯からは、両方とも一番下にスクロールして「PC向けのページ」を押して「決定」で完了になるそうです。
よろしくお願いします。(〃ー〃)今頃~・・・
本日、時間かかりました。
たぶん、明日が最終回になると思います。
オメガの台詞は、コメントでいただきましたけいったん様のものを、パクりました。(*⌒▽⌒*)♪
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応援していただけたら嬉しいです。此花
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