2ntブログ

夜の虹 1 

事務所に張られた売上表に、従業員は揃って感嘆の声を上げた。

「今月もやっぱり、月虹さんが断トツだ。」

「一体、これだけの売り上げどうやって叩き出してるんですかね。忙しいのに。」

「№2から№5までの売り上げ足してもかなわないってなんなんすかね。立場ないっす。おれ等、まじまずいっしょ。」

「世辞はいい。」

ふっと微笑んだ美しい男は、長い指で癖のある明るい色の髪をかき上げた。
ホストクラブ「幻夜」の№1ホスト、仙道月虹の姿がそこにある。

「ほら。お前ら、どうせこれが目当てだろ?」

報奨金の入った封筒を、ぽんと無造作にその場にほおって見せた。

「おお~!さすがっす。」

「腹いっぱい焼肉食って来い。足りなかったら、俺の名前で付けときゃいいからな。」

「ありがとうございます!」

がやがやと、煌びやかな男たちが月虹を一人残して部屋を出てゆくのも、いつもの光景だった。新参の男が、小さく聞いた。

「あの、月虹さんは、一緒に行かないんすか?」

「あの人にそんな暇があるかよ。おいおいわかるだろうけどさ、まじ忙しいからな。」

「女っすか?あの人だったら、すげぇ、別嬪連れてそうだなぁ。」

別嬪……という言葉に、その場に居たホスト達は顔を見合わせ、肩をすくめた。

*****

鏡に向かう仙道月虹は、細いコームで豊かな髪を撫で上げ固めた。
戦闘に向かう厳かな儀式のように、女に逢う時はいつもそうしている。

「……兄貴。惚れ惚れするほどかっこいいっす。」

「なんも出ねぇぞ。」

「嘘じゃねぇもん。」

弟分の涼介が、頬を染めて肩をすくめた。

「お前も、あいつらと一緒に焼肉食いに行けばよかったのに。」

「俺はあいつ等、ホストとは違います。兄貴のただ一人の舎弟ですから。」

「そうだったな。」

一見細く見える月虹の締まった体躯には、邪魔にならない程度の筋肉が乗っていて、誂えの品の良いスーツに隠されていた。
絵に描いたような綺麗な男の職業は、一応ホストという事になっているが、実際は鴨嶋組という小さな組の組長代行でもある。
辺り一帯を治めている鴨嶋組の高齢の組長と馬が合い、親しく出入りするうちいつしか自然と肩書が加わっていた。周囲には月虹を身内だと思っている者も多い。

本来なら世間が眉をひそめる裏社会に巣食うダニの風貌は、会うもの全ての目を見張らせるほど魅惑的だ。
しなやかな黒豹を思い出させる姿は、彼の血に流れる美貌の祖父の隔世遺伝によるものだ。
祖父譲りの端整な風貌と饒舌な瞳、節操のない下半身で、二足のわらじを履いた月虹は、ホストらしく又は893らしく、常に財布代わりの数人の金づるを抱えていた。

相手を選ばないから、女を相手するときは「スケコマシ」、あるいは男を抱く時は「ゲイホスト」と言った方が判りやすいかもしれない。
相対的に言うならとんでもない「人タラシ」というべきだろうか。

月虹の身体に男も女も夢中になり目の色を変えたが、決して月虹は誰かに本気で溺れるようなことはなかった。求められるままに、傷ついた男女を労わりながら、その横顔はストイックな聖職者のようだ。
そこにあっても決して捕まえられない「夜の虹」……人は月虹の事をそう呼んだ。

「ねぇ、兄貴。メール着てますよ。ファッションヘルスの雪ちゃんから。今月分のお金できたよ、いつ会える~♡ですって。」

「そうか。これからすぐに行ってくる。おっぱいのでっかい雪ちゃんが、愛しの諭吉ちゃんを抱えておれを待ってるからな。待たせるわけにはいかないだろ?」

「もう~~~っ。兄貴ったら、正真正銘のワルなんだから~。雪ちゃんじゃなくても、惚れ惚れしますねっ。」

「お前のいうのは、いつだって褒めてるんだか貶(けな)してるんだかわからないな。」

「やだなぁ。褒めてるのに決まってるじゃないっすか。おれは、兄貴に拾われて以来、兄貴にはマジで男惚れしてるんすからね。」

「惚れるのは勝手だが、おれは優しくないぜ。」

「それでもいいんす。傍に居られるだけで、十分っす。」

兄貴が誰の者にもならないことくらい、知ってます……と、涼介は小さくごちたが、その言葉は月虹の耳には届かなかった。

言葉通り本気で尊敬と恋慕のまなざしを向ける舎弟の涼介(りょうすけ)と月虹の出会いは、二年まえだった。





夜に浮かぶ虹は、明るさがなく七色ではなく白く光るのです。
夜の世界に生きる男の名前には似合いのような気がします。

職業がホストなので、女性も出てきますし、節操がないので男も出てきます。
つかみどころのない世捨て人のような性格の主人公です。
これまでには書いたことのない主人公です。

気に入っていただけたらうれしいです。
しばらくお付き合いください。 
明日からは、なるべく9時にあげるつもりですので、どうぞよろしくお願いします。 此花咲耶



にほんブログ村 小説ブログ BL小説へ




関連記事

4 Comments

此花咲耶  

Re: タイトルなし

> 夜の虹 って想像したこともなかった。
> そうなんだ! 白く光る 月のようですよね
> 楽しみにしてます(o^-')b

七色には光らない、夜の虹。
でも、これを見ると幸せになると言われているらしいのです。

関わる人たちが幸せになるはずです。
コメントありがとうございました。(*⌒▽⌒*)♪

2013/04/12 (Fri) 17:26 | REPLY |   

此花咲耶  

ちよさま

> 此花さまのお話としては、
> 年齢層が高めの人が登場するお話ですね。

はい。アダルトな世界なのでっす。(`・ω・´)
ちびっこが出てこないので、どうなりますやら……

> どんな展開になるのかな?
> 楽しみにしております!!

期待を裏切らなければいいなぁ……と思っています。がんばります~(〃゚∇゚〃)
コメントありがとうございました。(*⌒▽⌒*)♪

2013/04/12 (Fri) 16:56 | REPLY |   

nichika  

夜の虹 って想像したこともなかった。
そうなんだ! 白く光る 月のようですよね
楽しみにしてます(o^-')b

2013/04/12 (Fri) 16:50 | REPLY |   

ちよ  

此花さまのお話としては、
年齢層が高めの人が登場するお話ですね。

どんな展開になるのかな?
楽しみにしております!!

2013/04/12 (Fri) 07:48 | EDIT | REPLY |   

Leave a comment