夜の虹 2
月虹が出会った時の涼介は、母親の再婚に反対して家を出て彷徨していた…と語った。
貯めた小遣いを使い果たし、初めて迷い込んだ都会の繁華街の片隅で、肩がぶつかったチンピラに脅されて、残りの有り金を全てを奪われたのだと……。
それは精いっぱいの涼介の嘘だった。
月虹が声を掛けたとき、一目で家出してきたと見抜かれて、とんでもない男に売りとばされる寸前だった。
チンピラに襲われた素人の家出少年に優しく声を掛けては、そのまま雁字搦めにして沈めてしまうあくどい手口に涼介は引っかかろうとしていた。
恐ろしい毒牙を優しい笑顔の下に隠して、男は途方に暮れて路地に座り込んだ涼介の目の前に現れた。
「どうしたんだ?ん?」
「お金……盗られた。」
「そうか。大変だったな。泊まる場所がないんなら、小父さんちに来るか?何時まで居たっていいんだぜ。小父さんにも、そのくらいの甲斐性はある。ん?金がないならホテルにも泊まれないだろ?まだ野宿は寒いもんなぁ。」
「……ほんとぅ?」
「ああ。わけありだろ?小父さんはさ、こう見えても面倒見がいいんだ。何、泊まり賃なんていらないさ。困ったときは御互い様だ。どうせ、一人暮らしなんだ。」
「……でも、そんな……悪いよ。」
「いいって、いいって。」
男は涼介の少ない荷物を手に取った。
「良かったぁ。ほんとは、おれ、すごい困ってたんだ。カツアゲされて怖かった……」
「そうか。悪いことする奴が居るなぁ。飯でも食うか?」
売り専バーにたむろする綺麗専の男に手を引かれ、文字どうりお持ち帰りされる寸前だったのに気付いた月虹が声を掛けた。
ただの恋のさや当てなら口を出す気はなかったが、相手が、堅気にも容赦ない性質の悪い男だったと知っていたから、つい仏心を出してしまった。真正サディストのこの男に関わって病院送りになった者は、月虹が知る限り一人や二人ではない。
「おっさん。こいつおれの連れなんだけど、知ってて手ぇ出してる?おれの面くらい知ってるよね?」
この町で月虹を知らない者など、よそ者くらいしかいなかった。
男はざっと顔色を変えた。
「え……?こいつが月虹さんの、連れって……。やべ……え~と。いや、いやいや~。あ、ちょいと、野暮用思い出しちまったな~。あ、君、またいつか縁があったら会おうね。」
青ざめたそいつは、その場から速攻消え、涼介はその場に呆然として立ち尽くしていたが、しばらくすると、くるりと振り返って月虹に文句を言った。
「あんた、何してくれてんだよ~。あの小父さん、今夜泊めてくれるって言ってたのに~。飯食わせてもらうんだったのに~。」
「馬鹿野郎、飯の後でお前が骨まで食われるのを、助けてやったんだろうが。」
「え?おれが食われるって……?おれ、食いもんじゃないもん。」
月虹は思わず噴いた。
「おまえ、中学生か?何も知らないけつの青いガキが、こんなところをのこのこ歩いてるんじゃないぞ。この街じゃ、ちょいと見かけの良い子は油断すると食われるんだよ。まあ、いい。来な、腹が減ってるんだろう?飯くらい、おれが食わせてやるよ。」
「お……おれ、もう二日も何も食って無くて……お腹すいたぁ……わ~ん。」
いきなりその場で腹が減ったとしゃがみ込み、涙にくれた涼介にたらふく飯を食わせてやったのが始まりで、そのまま月虹に懐いてべったりとくっ付いている。
どう見ても高校生にも見えない一宿一飯の小犬を、昼間の世界に戻してやろうと、月虹は何度も家に帰るように言って聞かせたが、小犬は決して首を縦にふらなかった。理由を聞いても、母親の再婚相手が嫌な奴だからと、はぐらかしてばかりで、結局、諦めた月虹は涼介のしたいようにさせている。
それほど毛嫌いするからには、何らかの理由があるんだろう位に思っていた。
やがて、月虹は入り浸っている鴨嶋組に涼介を連れて行った。組と言っても、組長は高齢で、組員は数人しかいなかった。
「おやっさん。こいつを傍に置いて面倒見てくれませんかね。まだ店に連れてゆくには、ガキ過ぎるんですよ。」
「なんだよ。ずいぶん可愛らしいのを連れて来たなぁ。中坊かい?いくつだ?」
「……18っす。」
「嘘つくんじゃねぇ。まだ、毛も生えてないだろうが。」
老人は笑いながら、容赦なく拳骨を食らわせた。
月虹がいつの間にか代行になっている鴨嶋組の年寄りにも気に入られ、涼介はこの町に居場所を得た。
本日もお読みいただきありがとうございます。(*⌒▽⌒*)♪
大人なこのちんのはずが、やっぱり少年出てきました。(〃゚∇゚〃) 金魚のふんみたいに、いつも月虹にくっついている16歳の涼介です。
準主役と言ったところです。(*⌒▽⌒*)♪此花咲耶
貯めた小遣いを使い果たし、初めて迷い込んだ都会の繁華街の片隅で、肩がぶつかったチンピラに脅されて、残りの有り金を全てを奪われたのだと……。
それは精いっぱいの涼介の嘘だった。
月虹が声を掛けたとき、一目で家出してきたと見抜かれて、とんでもない男に売りとばされる寸前だった。
チンピラに襲われた素人の家出少年に優しく声を掛けては、そのまま雁字搦めにして沈めてしまうあくどい手口に涼介は引っかかろうとしていた。
恐ろしい毒牙を優しい笑顔の下に隠して、男は途方に暮れて路地に座り込んだ涼介の目の前に現れた。
「どうしたんだ?ん?」
「お金……盗られた。」
「そうか。大変だったな。泊まる場所がないんなら、小父さんちに来るか?何時まで居たっていいんだぜ。小父さんにも、そのくらいの甲斐性はある。ん?金がないならホテルにも泊まれないだろ?まだ野宿は寒いもんなぁ。」
「……ほんとぅ?」
「ああ。わけありだろ?小父さんはさ、こう見えても面倒見がいいんだ。何、泊まり賃なんていらないさ。困ったときは御互い様だ。どうせ、一人暮らしなんだ。」
「……でも、そんな……悪いよ。」
「いいって、いいって。」
男は涼介の少ない荷物を手に取った。
「良かったぁ。ほんとは、おれ、すごい困ってたんだ。カツアゲされて怖かった……」
「そうか。悪いことする奴が居るなぁ。飯でも食うか?」
売り専バーにたむろする綺麗専の男に手を引かれ、文字どうりお持ち帰りされる寸前だったのに気付いた月虹が声を掛けた。
ただの恋のさや当てなら口を出す気はなかったが、相手が、堅気にも容赦ない性質の悪い男だったと知っていたから、つい仏心を出してしまった。真正サディストのこの男に関わって病院送りになった者は、月虹が知る限り一人や二人ではない。
「おっさん。こいつおれの連れなんだけど、知ってて手ぇ出してる?おれの面くらい知ってるよね?」
この町で月虹を知らない者など、よそ者くらいしかいなかった。
男はざっと顔色を変えた。
「え……?こいつが月虹さんの、連れって……。やべ……え~と。いや、いやいや~。あ、ちょいと、野暮用思い出しちまったな~。あ、君、またいつか縁があったら会おうね。」
青ざめたそいつは、その場から速攻消え、涼介はその場に呆然として立ち尽くしていたが、しばらくすると、くるりと振り返って月虹に文句を言った。
「あんた、何してくれてんだよ~。あの小父さん、今夜泊めてくれるって言ってたのに~。飯食わせてもらうんだったのに~。」
「馬鹿野郎、飯の後でお前が骨まで食われるのを、助けてやったんだろうが。」
「え?おれが食われるって……?おれ、食いもんじゃないもん。」
月虹は思わず噴いた。
「おまえ、中学生か?何も知らないけつの青いガキが、こんなところをのこのこ歩いてるんじゃないぞ。この街じゃ、ちょいと見かけの良い子は油断すると食われるんだよ。まあ、いい。来な、腹が減ってるんだろう?飯くらい、おれが食わせてやるよ。」
「お……おれ、もう二日も何も食って無くて……お腹すいたぁ……わ~ん。」
いきなりその場で腹が減ったとしゃがみ込み、涙にくれた涼介にたらふく飯を食わせてやったのが始まりで、そのまま月虹に懐いてべったりとくっ付いている。
どう見ても高校生にも見えない一宿一飯の小犬を、昼間の世界に戻してやろうと、月虹は何度も家に帰るように言って聞かせたが、小犬は決して首を縦にふらなかった。理由を聞いても、母親の再婚相手が嫌な奴だからと、はぐらかしてばかりで、結局、諦めた月虹は涼介のしたいようにさせている。
それほど毛嫌いするからには、何らかの理由があるんだろう位に思っていた。
やがて、月虹は入り浸っている鴨嶋組に涼介を連れて行った。組と言っても、組長は高齢で、組員は数人しかいなかった。
「おやっさん。こいつを傍に置いて面倒見てくれませんかね。まだ店に連れてゆくには、ガキ過ぎるんですよ。」
「なんだよ。ずいぶん可愛らしいのを連れて来たなぁ。中坊かい?いくつだ?」
「……18っす。」
「嘘つくんじゃねぇ。まだ、毛も生えてないだろうが。」
老人は笑いながら、容赦なく拳骨を食らわせた。
月虹がいつの間にか代行になっている鴨嶋組の年寄りにも気に入られ、涼介はこの町に居場所を得た。
本日もお読みいただきありがとうございます。(*⌒▽⌒*)♪
大人なこのちんのはずが、やっぱり少年出てきました。(〃゚∇゚〃) 金魚のふんみたいに、いつも月虹にくっついている16歳の涼介です。
準主役と言ったところです。(*⌒▽⌒*)♪此花咲耶