優しい封印 2
「求でいいよ。お母さんと結婚するけど、涼介君に無理やり「お父さん」なんて呼ばせたくないからね。いつか、自然にそう呼んでくれたら嬉しいけど。」
無理強いしない間島に、涼介は直ぐに懐き、しばらく経つとごく自然に「お父さん」と呼ぶようになった。父親と暮らした記憶が、ほとんど皆無だったのもあったかもしれない。涼介が何気なく初めてお父さんと呼んだ時、求は驚いたように目を瞠り、その後、涼介を抱きしめて嬉しいと言って子供のように泣いた。
母と間島の結婚式は、三人だけで質素に行われた。
参列者は誰もいなかったが、白いウエディングドレス姿の母は美しく、三人で撮った家族写真は大切に居間に飾られた。
後から聞けば、間島には田舎に家族がいるが結婚を反対されたらしい。
*****
間島求の田舎の両親は資産家で、揃って挨拶に赴いた母に、親も判らない施設暮らしの娘を間島家の嫁にする気はないと、上にもあげず玄関先できっぱり言い放ったそうだ。
「……少し調べさせていただいたのだけれど、あなたは二度目の御結婚だそうね。どんな手を使って、求をたぶらかしたのか知らないけれど、求にはきちんとした家の娘を貰って、間島の家を継いでもらわなければなりませんの。」
「お金が必要ならそうおっしゃいな。手切れ金としてなら用立てて差し上げてよ。」
「お母さん。ぼくが選んだ人に、それ以上の侮辱はやめてください。彼女はこの家の事も何も知らないんです。」
間島求は、たまらず割って入ったが、そこで母親は求もまた両親となさぬ仲なのだと知る。求の抱えた闇は、深かった。
「求さんがわたくし達に逆らうなんて。飼い犬に手を噛まれるとは、よく言ったものだわ。何の為に、あなたを分家から養子に迎えたと思っているの。」
「親の借金の始末をした上に、大学院まで出してやった恩を、こういう形で返すとはな。」
間島求は唇をかんだ。こうした展開を予期してないわけではなかったが、それでも少しは祝福してもらえると淡く期待していた。唇を震わせて、求は両親に向き合った。
反抗したのは、これが初めてだったかもしれない。
「ぼくが……引き取られたのは……間島家の対面を守るためです。義兄さんの暴走を抑えるのに、誰かが必要だったから。あなたたちには……お金が全てで、何でも思うようにしてきたけれど……ぼくにも心はあります。何をされても、平気なわけなどないでしょう……あなたたちは、義兄さんがぼくに何をしたか知っていたはずです。」
思い詰めた求の悲愴な決意に、両親は二の句を告げられなかった。
「ぼくは、あなたたちと縁を切って彼女と一緒になります。もう、あなたたちの思い通りにはなりません。義兄さんとも、金輪際会いません。用立てていただいたお金は、いつかお返しに上がります。」
間島求は、愛する女の手を固く握って頭を一つ下げると、生まれ故郷を後にした。
「いやな思いをさせて、すまなかった。少しは予期していたけれど、まさかあそこまで言われるとは思わなかった。」
「平気よ。こう見えて、子連れのバツイチは強いのよ。」
「でも、これでぼくは生まれ変れたような気がするよ。ぼくにもやっとちゃんとした家族が出来るんだ。嬉しいよ……」
抱き合えば、温もりが二人をつなぐ。
互いがいれば、何もいらないと思った。
本日もお読みいただき、ありがとうございます。
(´・ω・`) 幸薄そうな若い夫婦です……←
どうやら、いろいろな確執がある家庭に育ったようです。
涼介は幸せになれるのでしょうか……(*´・ω・)(・ω・`*)ネー
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